大蛇嵓の怪女

門部:日本の竜蛇:近畿:2012.01.18

場所:奈良県吉野郡上北山村
収録されているシリーズ:
『日本の伝説13 奈良の伝説』(角川書店):「大蛇嵓の怪女」
タグ:討伐される竜蛇


伝説の場所
ロード:Googleマップ

「そりゃあそんな所に立ち入ったら〝出る〟だろ」と今でも思わざるを得ない土地もある。下写真の大蛇嵓(だいじゃぐら)から見る景色などまさにそうだ。そして、もちろん出るのである。

大蛇嵓
大蛇嵓
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大蛇嵓の怪女:要約
北牟婁の海辺の船津村に六兵衛という怖れを知らぬ頑健な漁師がいた。綱すきには「スクリの木」を使ったが、それを採るために他の者が行かぬ大台が原山まで分け入っていた。ある年、六兵衛は大台が原でも大蛇が棲む所ともっとも怖れられる大蛇嵓へまで踏み込んだ。
人の立ち入らぬその辺りはスクリの木がたくさんあり、収穫に気を良くした六兵衛は夜になると仮小屋で火を焚き、皮むきの作業に取りかかった。すると、小屋の中にいつの間にか恐ろしい目をした女が立ち、六兵衛を見下ろしていた。
乞われるままに飯と酒を女に与えていると、同じような年格好の女がもう一人現われた。二人の女は無言でにらみ合っていたが、やがて外へ連れ立って出た。その途端、天地が鳴動するような大音響が山の静寂を破り、六兵衛は気を失った。
しばらくして六兵衛が目を覚ますと、小屋には白髭の老爺と先のあとから来た方の女がいた。女は打って変わった優しい顔つきで、自分は大台が原の神で、さっきの女は大蛇の化身でお前を食おうとしていたのだと告げた。大蛇は強く危うかったが、弥山大神(老爺)の加勢を得て討ちはらった、心配せず仕事を続けよ、と。六兵衛が礼を言おうとすると二神の姿は掻き消えた。六兵衛は初めてものを怖れることを覚え、以降大台が原へ登る者は必ず連れで行くことになった。

角川書店『日本の伝説13 奈良の伝説』より要約

『まんが日本昔ばなし』大蛇嵓の怪女
『まんが日本昔ばなし』大蛇嵓の怪女

『まんが日本昔ばなし』にも同名「大蛇嵓の怪女」として収録されていた。おそらく先の話を底本としているのだと思うが、六兵衛が気を失っている間に事がすんではアニメにならないので、女神・弥山大神と大蛇のバトルも描かれている。

弥山大神を白髭の老爺で表しているのは宇賀神のことだろう。となると加勢を頼んだ大台が原の女神は弁天のことと思われる。即ちかの天河弁財天だ。天河大弁財天社は弥山の山頂に奥宮を持つ。

「天河大弁財天社」(webサイト「神奈備」)

天河大弁財天社
天河大弁財天社
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この話は南紀の海に暮らす漁師たちが紀伊半島の内奥にある弥山を信仰するいわれを語ったものだろう。六兵衛のような豪胆の者が、怖れを知らず神域にまで踏み込んだら普通は怪異にあって厄を得るのが通例であり、信仰深いということもなく神々の加護を得るという話の型は珍しい。

この点弁天さんというのは柔軟であり、山奥の水源のような所から海神としてまで広く信仰することができる。海の者が山中にあって弁天の加護を求める、という例は意外と多いのかもしれない。

memo

大蛇嵓の怪女 2012.01.18

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