雨を降らせた竜

門部:日本の竜蛇:関東:2012.01.05

場所:千葉県印旛沼周辺
収録されているシリーズ:
『日本の民話6房総・神奈川篇』(未来社):「雨を降らせた竜」
タグ:竜王に逆らい雨を降らせる竜


伝説の場所
ロード:Googleマップ

今の印旛沼は特に巨大ということもないが、かつては壮大な内海であった霞ヶ浦の入江の一つだった。海と呼んでもおかしくないようなところだったのだ。そこにはやはり竜がいた。そしてその竜は、村人の苦しみを見かね、自ら犠牲となり雨を降らせたという。そんな伝説がある。

印旛沼周辺の海面上昇図(7m)
印旛沼周辺の海面上昇図(7m)
フリー:画像使用W840

雨を降らせた竜:要約
昔、印旛沼の畔に気の良い人ばかりの裕福な村があった。印旛沼の主の竜も村人たちが好きで、人の姿になってよく村に遊びに行っていた。村人たちも竜と知っていて家に呼び入れ、大変なもてなしをしてやっていた。
ある年、印旛沼のあたりに大日照りがあって、人々は一生懸命に雨乞いをしたもののいっこうに降らず、ただ死を待つばかりの有様となった。この時いつもの竜が現われ「大竜王は、雨を降らすことをとめているから、雨を降らせば、きっと私の体は断ち切られ、天から捨てられてしまう」と言う。
しかし竜はこれまでの恩返しに雨を降らそうと言う。そして竜が姿を消すとともに天はにわかに曇り、大粒の雨が降りそそいだ。村人たちは狂喜しつつも、竜を心配し天を見上げた。すると、ちょうど竜が天に昇って行く姿が見えた。
どうなることかと一同が祈るも、天を裂く雷が鳴り渡り、竜の姿は三つに裂けてしまった。次の日、皆で手分けして探すと竜の頭が安食に、腹が本埜に、尾は大寺に見つかった。ここに寺を建てたのが竜角寺・竜腹寺・竜尾寺である。

『日本の民話6房総・神奈川篇』より要約

三分された竜を弔った寺は一応現在でもあり、頭が印旛郡栄町の龍角寺・腹が印西市(旧・本埜村)の龍腹寺・尾が匝瑳市大寺の龍尾寺となる。

龍角寺
龍角寺
レンタル:Wikipedia画像使用

少し変化した話としては天平年間の古代龍角寺を整備した僧・釈命が干ばつに際して祈祷し、応えた印旛沼の竜が天に昇って雨を降らせた、とされるものもある(『佐倉風土記』)。竜王の怒りに触れ竜が三分されるのは同じ。この僧に乞われて雨を降らせる型が関連話との比較上重要となる(後述)。

東西にこのような「分割された竜蛇の各部を弔った・祀った寺社」の伝説があり、なにがしかの意味を伝える定型話だったのかもしれない。その意味とは何か……について現状は全体を見通しての話はできないので、一通りの類似伝説が集まってからのお楽しみとしておこう。

印旛沼の竜に関しては尾にあたる匝瑳が物部氏の物部小事による下総開拓のスタートポイントであり、腹にあたる印西にはやはり物部の神を祀る鳥見神社群があるため、その開拓して行った行程と何らかの関係があるのではないかと思っている。ちなみに匝瑳市の総鎮守格である式内:老尾神社の鎮座地は「生尾」であり、あるいは落ちた竜の尾のことであるのかもしれない。物部小事との関係を伝え、香取神宮とも縁が深いであろう古社である。

さて、その辺りはさて置き、今回は遠く尾張の話を関係させてみたい。尾張一宮にこの印旛沼の竜と大変良く似た竜神伝説があるのだ。続けて参照されたい。

印旛沼
印旛沼
レンタル:Panoramio画像使用

memo

雨を降らせた竜 2012.01.05

関東地方:

関連伝承:

真清田の竜神
真清田の竜神
愛知県一宮市 真清田神社
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