田沢のおだず

門部:日本の竜蛇:北海道・東北:2012.01.07

場所:秋田県仙北市:田沢湖
収録されているシリーズ:
『日本の民話 2 秋田・出羽篇』(未来社):「田沢のおだず」
タグ:三湖伝説/ヌシの発生


伝説の場所
ロード:Googleマップ

東北最大の竜伝説「三湖伝説」の一角を占める田沢湖の辰子姫。それそのものはいずれ三湖伝説全体の紹介でとなるが、今回は同地に語り継がれてきた「プレ辰子姫伝説」とでもいうべき話を紹介したい。

辰子姫を祀る御座石神社の鳥居
辰子姫を祀る御座石神社の鳥居
レンタル:Panoramio画像使用

田沢のおだず:要約
鳥海山が轟々と火を噴き、大鷲が人の子どもを攫ったり、翼の生えた神馬が飛んできて、人の飼う牝馬を孕ませたりしていた、まだ地上に人が現れたばかりの頃の大昔。田沢におだずというきれいな娘がいた。
おだずは山が好きで、その日も川を渡ったり、林の中をかけ廻ったりしていた。ところが、急に松の林が金色に光り、小鳥達が一斉に空に舞い上がった。恐ろしい山鳴りがして、山が崩れはじめた。
おだずは必死に「おとう、おかあ」と叫びながらかけたが、足下の地面が崩れ、底知れぬ地の底へ落ちてしまう。その穴にはやがて水がたまり田沢湖となった。そして、地の底へ落ちたおだずは竜となってこの湖深くに眠っていると言う。

未来社『日本の民話 2 秋田・出羽篇』より要約

「おだず」とは「おたつ(お辰)」だろう。伝説と言うより神話のような結構である。三湖伝説そのものが十世紀はじめに起った十和田湖の大噴火を伝えるものではないかと言われ、ならば先の話のおだずを呑んだ地殻変動もそうなのかという感じもある。

しかし、娘が地割れに呑まれ水が湧く、というモチーフが世界的に見られることを考えると、遥か以前からの伝承が含まれているのではないかとも思われる。十和田湖の方にも「赤神と黒神のけんか」という女神を取り合う二柱の男神という三湖伝説を思わせながらより古いであろう伝説がある(三湖伝説には八郎太郎と南祖坊が辰子姫を取り合って闘う、という型がある)。

いずれ三湖伝説は周辺地域に点在していた伝説を繋ぎまとめていったものと思われるが、「田沢のおだず」は繋がれブラッシュアップされる以前の田沢湖の伝説を伝えているのではないかと思う。辰子姫の向こうに見える「おだず」のことをしっかりと覚えておきたい。

memo

田沢のおだず 2012.01.07

北海道・東北地方: