蛇になったお里乃

門部:日本の竜蛇:北海道・東北:2012.01.07

場所:山形県西置賜郡小国町
   新潟県岩船郡関川村:大里峠周辺
収録されているシリーズ:
『日本の民話 2 秋田・出羽篇』(未来社):「蛇になったお里乃」
『日本の伝説4 出羽の伝説』(角川書店):「大里峠の女人蛇体」
タグ:女人蛇体/琵琶法師と竜蛇

話にまつわる土地の多くは新潟県で、下の祭も新潟なのだが、中心となる峠が山形との県境であり、未来社・角川書店のシリーズ共に山形県「置賜の里」の扱いとなっている。


伝説の場所
ロード:Googleマップ

新潟県岩船郡関川村に長さ82.8m、重さ2tの世界一の大蛇が出る。その名も「大したもん蛇まつり」という。

大したもん蛇まつり
大したもん蛇まつり
リファレンス:大したもん蛇まつり公式サイト画像使用

祭そのものは昭和63年にスタートしたものだが、この祭の由来となる伝説はこの土地に古くから語られ、竜蛇界(?)でも一つの典型話として有名だ。

蛇になったお里乃:要約
越後の女川(めかわ)村(今の蛇喰・じゃばみ)に、またたびを燻し、香りに寄って来る大蛇を鉄砲で撃ち、その肉を味噌漬けにしている男がいた。その味噌漬けは三年過ぎないと食べてはいけないものだったが、男の妻のお里乃は漬けたばかりの蛇の肉を食べてしまう。
もう少しもう少しとついにはひと桶食べてしまったお里乃は、途端に激しい喉の渇きに襲われ、大川に入って水を飲み出した。いつしかお里乃は大蛇と化していた。やがて一天にわかにかき曇り、お里乃の大蛇は飛び去って行った。
その後お里乃蛇は関谷という土地の山(大里峠)に住み着く。田畑を荒らし、毒気を吹くので、里の人はこれに大変困った。そんな折、とある旅の琵琶法師がこの地へ来て琵琶を弾いていると、その音に誘われてお里乃蛇が現れた。
そして琵琶のお礼に、自分は近々この地の川を塞き止めて泥の湖にしてしまおうと考えている、と教えた。法師だけは逃げる様に、他言をしたら命はない、と。法師はお里乃蛇に、お前は琵琶の音が好きな様だが、では何が苦手かね、とたずねる。蛇は鉄が何より苦手だと答え、姿を消した。
法師は自分にかまわず、村の長に事の次第を告げる。村人は総出で鉄を集め溶かして鉄杭を作り、山中に打ち込んだ。お里乃蛇はたまらず、七日七夜苦しみ暴れて死んでしまった。その後、村人が琵琶法師を探すと、鎮守の社の前に琵琶と杖だけを残して法師は消えてしまっていた。

未来社『日本の民話 2 秋田・出羽篇』より要約

他の竜蛇譚にも見る幾つもの基本的なモチーフが連打されている。まず、禁断のモノを食べる、ないし欲に駆られて食べ過ぎることにより蛇体となる、というモチーフ。これは八郎潟の八郎がそうだ。

そして先の理由から、また他の理由から「咽の渇きが癒えなくなり」川に飛び込んでまで水を飲み、蛇体化する、というモチーフ。田沢湖の辰子姫は永遠の若さ・美しさを願い、咽の渇きが癒えなくなる。

次に音楽を奏でる者が登場し、蛇ヌシが惹かれて出てくる。琵琶法師の琵琶のケースと美青年の横笛の例が多い。これは枚挙にいとまがないほどあるが、琵琶法師で「まんが日本昔ばなし」だと、「琵琶法師と竜」のタイトルでこの筋のお話が放映されている(出典不明・蛇のヌシは男だが)。

蛇は棲み家を造るため、ないし昇天するために一帯を泥の海にするという予告があり、村の者に告げたら命はない、という脅しがある。琵琶法師の話は大概この顛末となる。

そしてかの有名な(?)「蛇は鉄気(かねけ)を嫌う」という退治作戦になる。鉄杭を打ったり、池の場合は村の金物が皆放り込まれたりし、これが錆びたので池の水は赤いのだ、という話になったりもする。蛇と鉄のモチーフはこの型に限らず様々な場面で登場する。

告げた琵琶法師や美青年は死ぬのだが、先の要約話のように消えてしまう場合、「竜巻に」攫われてしまう場合、「雷」に撃たれて死ぬ場合(これは美青年形に多く遺体に鱗が生えているのが見つかるケースが多い)などの結末がある。

要するに、具体的な土地を指定する「伝説」と言えども、結構ユニットの組み合わせでできているのだ、ということだ。そして今回のお里乃蛇の話は、その代表的なモチーフを多く持つ、教科書的なお話であると言えるだろう。

memo

旅の琵琶法師の名は「蔵の市」だったと伝わっており、残された琵琶は関川村下関の「大蔵神社」に神宝として伝わっているという。

大蔵神社
大蔵神社
リファレンス:にいがた観光ナビ画像使用

蛇になったお里乃 2012.01.07

北海道・東北地方: