宇那堤の森
門部:日本の竜蛇:中国:2012.01.14
場所:岡山県津山市:高野神社
収録されているシリーズ:
『日本の伝説29 岡山の伝説』(角川書店):「宇那堤の森」
タグ:竜蛇と鰻/女人蛇体
伝説の場所
ロード:Googleマップ
津山市の西、美作国二宮:高野神社の社叢を宇那堤(うなで)の森という。伝わる話は神に祈願して授かった子が訳もなく入水してしまい蛇と化すという女人蛇体の話だが、その話が伝わる森淵が「宇那堤」である点が重要だ。
宇那堤の森:要約
昔、戸川の宿の砂田に庄司勝という長者がいた。不自由のない身だったが、子供がなかったので、夫婦は宇那堤の森の神に祈願して、かわいらしい女の子を授かった。亀千代と名づけたその娘は、成長するにしたがって美しく、気立てのよさとともに近郷の評判娘となった。
ところが、その娘は、夜になるとそっとどこかへ出かけていくのだ。そして、帰って来ると草履の紙緒が濡れているのだった。ある夜、不審に思っていた女中が亀千代の後をつけていくと、とある深い淵の橋の上に立ち止まり、亀千代は水面を覗いていた。
背後から水面を覗いた女中が見たのは、そこに映っている大蛇の姿だった。女中は悲鳴をあげ、本性を見られた亀千代は淵に飛び込んだ。その後、波を割って現われたのは亀千代ではなく、鏡のような目を光らせた大蛇であった。
それからその淵を「亀ヶ淵」と呼び、橋を「姿見橋」というようになった。しかし、いまはその淵も橋もなく、ただ宇那堤の森の巨木だけがわずかに昔をしのばせている。
この女人蛇体の系統の話が何を意図したものだったか、に関しては「大浪の池」などを参照されたい。今回指摘しておきたいのは「宇那堤の森」の名そのものである。
鰻を水神の眷属として祀る例がままあり、特に東北地方では「ウンナンさま」といって良く祀られる。これが田の用水の溝(うなて)と関係するのではないかと見る向きがあり、宇奈根とか宇奈抵とか類似の音をもつ神格に関係するのではないかという話となる(谷川健一『続 日本の地名』岩波新書など)。
一方、鰻の伝説は蛇の伝説と類似するものがきわめて多い。蛇を鰻が置換しただけ、というものも少なくない。しかし、鰻が蛇の一種だと捉えられていたのだ、と言い切れる程に分かりやすい訳でもない。すなわち、目につく事例を並べあげてみてさあどう出るか、というテーマなのだ。
高野神社は『今昔物語』に蛇の神だとあり、また森も『万葉集』に「卯名手の森」とあるそうで、古代からの話として追うことができる。今の所鰻の話は聞かないが、竜蛇への接続を考える上では重要な所となるだろう。
ところで同書(角川『日本の伝説』)には「この森にすむ大蛇は、人畜に害をあたえるばかりか、高野神社の扁額をなめたと伝えられる」という話も紹介されている。なかなかに不敵な大蛇である。しかしもともと蛇の神だったのに?という感じもする。あるいは祭神が人の形をした神に整えられて後の動向を物語るものかもしれない。この辺も面白い所である。
memo
宇那堤の森 2012.01.14