阿弥陀峰の大蛇退治

門部:日本の竜蛇:中国:2012.01.19

場所:広島県広島市阿弥陀山
収録されているシリーズ:
『日本の伝説21 広島の伝説』(角川書店):「阿弥陀峰の大蛇退治」
タグ:竜蛇と鹿の角/竜蛇のわたり


伝説の場所
ロード:Googleマップ

竜蛇と鹿の話。芸州の阿弥陀峰(阿弥陀山)には大蛇が三頭の白鹿に化けて通ったという伝説がある。ダイレクトに大蛇が鹿に化けている話なのだ。海を渡る鹿が何を示すものなのかを考える上でまことに興味深い話である。

阿弥陀峰の大蛇退治:要約
阿弥陀峰の山並みの鞍部に雌の大蛇が棲むという池の草という所があった。そして、廿日市町極楽寺の蛇の池の雄の大蛇が、三頭の白鹿に化けて鹿道(かのち)をへて通うと言われていた。真ん中が本物なのだが、これを見た者は失神するとされ、村人の恐怖の的だった。
そこで強弓で知られた黒谷の田村鬼郎右衛門は、阿弥陀峰の大蛇退治を決意した。そうして池の草に登ること三十八日目の夜、たばこをふかしていると山蛤(蛭)が足先をかんだ。蹴落として向こうを見るとまさしく三頭の鹿が見えた。
あやまたず真ん中を射て、手応えありと思った瞬間、鬼郎右衛門は失神して南麓の狐原に転落した。危うく命をとりとめた鬼郎右衛門は、それから三年後に山に登ってみた。すると、蛇の骨が山全面に散乱していた。
そのときの弓は後転々と人手に渡ったが、その度ごとに異変が起るので、大正はじめ田村家に戻された。

角川書店『日本の伝説21 広島の伝説』より要約

南薩「鳴野原」では大蛇と思って行ったら大鹿だった、という話だったが、こちらは実際化けている。しかも雌蛇のもとへ通うため、というところが面白い。鳴野原も夫婦の池の話だった。

極楽寺の蛇の池
極楽寺の蛇の池
レンタル:Panoramio画像使用

廿日市町(今、廿日市市)・極楽寺の蛇の池の雄の大蛇というのは「蛇の池に住む蛇は頭が八つ、尻尾が三本あり、毎年春の雨の夜に出雲に這って行き、秋には(娘をさらって)帰ってくるといわれ、スサノオノミコトが大蛇を退治されてからはこの蛇の這う音が聞こえなくなった」と伝わる程の大物のようだ。

しかし、この大蛇の骨、鬼郎右衛門が三年後に再訪した際には頭骨が修験者によって持ち去られてしまっていたという。蛇と鹿の問題はその「角」がどう語られるのかが重要だと考えているのだが、残念ながらこの伝説では角に関する記述はない。

ところで、雄の大蛇は厳島から海を渡って来たとも言うそうなのだけれど、「鹿」の方から見ればその方がらしくもある。

同書でも「兎我野の雄鹿が邪恋に狂って正妻のとめるのもきかずに淡路島の妾鹿のところに渡ろうとする途中猟師に射殺されたという『古事記』の話から連想したのかも分からない」と指摘している。『古事記』ではなく『摂津国風土記逸文』の所謂「夢野の鹿」伝説だと思うが。

いずれにしても阿弥陀峰に通う大蛇の鹿も、瀬戸内海を渡る鹿のイメージに近い所にある、と皆思うのだろう。だんだんどの方向に関連づけるべきなのかも見えて来る様な一話だ。

memo

阿弥陀峰の大蛇退治 2012.01.19

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