妙観院の鐘

門部:日本の竜蛇:中部:2012.02.10

場所:石川県七尾市小島町
収録されているシリーズ:
『日本の伝説12 加賀・能登の伝説』(角川書店):「妙観院」
タグ:竜蛇と鐘


伝説の場所
ロード:Googleマップ

「竜虎相搏つ」という概念ももとをただせばはるばる紀元前四千年の仰韶文化にまで遡ろうかという代物だが、巡り巡って能登の寺の釣鐘の竜頭のいわれになったりもする。

妙観院山門
妙観院山門
リファレンス:石川県:歴史・観光・見所画像使用

七尾の西はずれの小島町には、真言宗の妙観院をはじめ伝説に富む寺が多い。和倉温泉行きバスの海員学校前でおりると、左に竜宮城を思わせる山門の寺が見える。これが妙観院である。
昔は、この山門のあたりまで海だった。右手の岩山に、竜頭が「竹に虎」という珍しい梵鐘がある。恋に狂った女が岩山から身を投げて大蛇(竜)と化し、下の底なしの淵にすみついた。鐘が鳴るたびに三熱の苦しみをうけるので鐘を引きずり込み、鐘楼には鐘がなくなった。
元禄八年(一六九五)、金沢の福久屋が夢のお告げによって鐘を寄進することになった。「竜虎相打つ」といわれるところから、竜に対する虎に竹を配した竜頭をつけたのである。それからは無事におさまって変事は起こらない。

角川書店『日本の伝説12 加賀・能登の伝説』より引用

底なしの淵は池となって山門の左脇にあり、遠く七尾湾内の雄島・雌島に通じているという。で、釣鐘の竜頭(鐘を吊るすための把手)はその名のように通常竜なのだが、これが写真の如く虎なのだ。色々な案内を見ても「本邦唯一」であるとうたっている。

竹に虎の竜頭
竹に虎の竜頭
リファレンス:ひとりごと画像使用

もっともこの話はそれまでというか、さすがに虎を配して鐘を守ろうという寺がゾロゾロあるなどという事ものないので、妙観院にはそのような変わった伝説がある、というだけなのだが、「竜蛇と鐘」というテーマを立てて追う以上は知らんで良いということはないだろう。

さて、この伝説にはもうひとつ指摘しておきたいところがある。大蛇が「鐘が鳴るたびに三熱の苦しみをうける」というところだ。竜蛇と鐘の関係には極端な二面性がある。

ひとつはこのように鐘の音が仏法の音であり、邪である蛇が苦しむ、というものだ。「蛇穴」と呼ばれる穴から隠れ里に迷い込んだ男が現世の寺の鐘の音をたよりに脱出する、などという話もあり、この場合鐘の音は邪・魔をはらい、「あちら」と「こちら」を仕切る鶏の声などと近い所もある。

しかし一方には近江「三井寺の鐘」のように鐘が竜蛇の化身であるとか、「役行者(竜蛇と鐘)」のように沈んだ鐘を竜蛇が守っているとか、鐘と竜蛇は同体である、ないし竜蛇は鐘を好む、という面があるのだ。

これがどういうことなのか、何かの鏡像なのか、あるいは関係なく双方の型があるのか、現状は何とも言えない。たとえば蛇女房の鐘は何だというケースで、現世の法を示す鐘の音が「竜蛇を〝こちら〟に繋ぎ止めているのだ」というように考えるとかなり中間的な意味合いになる。

鐘崎」の列挙した類話中にも、よく見ると双方の例があるのが分かるだろう。基本的には仏法を示す鐘の音と、鐘そのものが表象するものの差となるだろうが、これもまた実際の話を多く集めて見比べたい一件である。

memo

妙観院の鐘 2012.02.10

中部地方:

関連伝承:

国分寺の鐘
福岡県宗像市鐘崎
沈鐘伝説は北九州に大変多い。この稿にはその概略が列挙してある。
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