尹氏淵

北朝鮮:平安南道順川郡

平安南道順川郡の南約十町の坪洞に、尹氏淵という池がある。いまからおよそ五〇〇年前に、尹剛という人がいた。この家は非常に富んでいたが、一頭の白馬を飼って、とくにこれを大切にして、いつも庭の前の井戸の辺りにつないでおいた。

ある日、井戸から雲が立ち昇るとみる間に青龍が現われ、この白馬と交わった。尹剛はそのときちょうど縁側にいたが、弓に矢をつがえて満月の如くひきしぼり、青龍を射た。確かに手答えはあって、青龍が見えなくなった。するとたちまち黒雲が群がり起こって、大雷雨になった。それが二日も三日もやまなかった。雷雨がやんだときは、あたりは水海となってしまい、尹剛の家は全部底に落ちてしまった。

この池は尹氏淵と呼ばれており今も残っている。横は十三間位、縦は十五町位もあろう。

三輪環『伝説の朝鮮』三〇ー三一 博文館 一九一九年

崔仁鶴『朝鮮伝説集』(日本放送出版協会)より原文


竜馬とは親も竜馬で子も竜馬なのか(つまり竜馬という種なのか)、それとも竜と馬の間に生まれるイレギュラーな存在なのか。あらためてそう問うてみると、どちらのイメージでとらえられてきたものか、にわかには答え難い。竜馬から竜馬が生まれた、という話はあまり聞かないが、竜蛇と馬が交わり竜馬が生まれたという話は見るので、一応後者のイメージが強いだろうか。しかし、竜と馬の関係というのもなかなか一筋縄とはいかず、好悪が相反する例がまた見える。

この「尹氏淵」は、結果として竜馬が生まれた話ではないのだけれど、龍が馬を好いて交わった、という話ではある。日本では大蛇が親(まず竜蛇は父の側となる)となるが、常陸の名馬里が渕では結果あいのこである存在が生まれていた。

名馬里が渕の蛇
茨城県高萩市秋山:渕の蛇と馬との間に、半分馬で半分蛇という怪物が生まれる。

これを参照とすれば、尹剛が射なければ竜馬が生まれていたのじゃないかと思えるのだ。ともかく、まずは、このように子をなす相手として龍は馬を引くという話がある。その一方で、次のような竜が馬を引くといっても少しニュアンスの異なる話もある。

白馬江と釣龍台
韓国:忠清南道扶余郡:唐の将軍蘇定方が百済を守護する江龍を白馬を餌にして釣り上げた。