棠木山の龍馬

北朝鮮:京畿道開城

昔、京畿道開城の棠木山に龍馬が住んでいた。しかし、その姿は絶対現わさなかった。ところでこの龍が一度鳴き吠えると、うろこが付いている壮士が生まれるといわれている。

あるとき、この龍馬が鳴きはじめた。
当時、棠木山麓の小さい村に、禹氏という家があり、この家で子供が生まれた。この子供は三つになると、力士のように力があり、山を駈けまわっては獣を自分が欲しいだけ捕えてくるのであった。このような噂が広がり、朝廷にまで届いた。朝廷では、この子が大きくなると後患がやってくると恐れ、その子を捜しはじめた。龍馬の鳴き声がしたというところにきて、その子をみつけて調べてみると、両手の脇にうろこがついていた。

子供の両親はびっくりして、そのうろこを切り落とした。すると、その子供はどんどん弱くなり、何年か後には死んでしまった。

今も禹の後孫のなかには、力持ちの人が多いといわれる。

崔常寿採集 一九三五年十月
李皓永 京畿道開城府北本町

崔仁鶴『朝鮮伝説集』(日本放送出版協会)より原文


明らかに、龍馬が英雄を誕生させている。そして、星男と月女のところでも述べたように、脇に鱗があり、これが英雄の力の源となっていて、その鱗が落とされると力を失ってしまう、死んでしまう、というのは竜蛇を祖とする一族にまま見る話である。

星おとこと月おんな
韓国:慶尚南道河東・金島山:脇に金の鱗をもつ星おとこが、仲良く暮らす月おんなへの横恋慕に狂った地神に害される。

文中「龍馬が」ではなくて「龍が」となっているところがあるが、誤植でなければ同じだということだろう。そもそも「禹」は中国神話の禹王の禹だが、これは竜蛇が二匹重なってできている字である。この棠木山の龍馬はもう限りなく竜蛇に近い竜馬だといえるだろう。以下の壮士とセットであったされる竜馬の話などと併せて、本邦にも見る英雄と竜馬・良馬の関係の深さというものを考えたい。

竜馬の出てきた墓
韓国:江原道平昌:異常な成長をする子が恐れられ殺され、埋められたところから竜馬が飛び立ったが、これも死んだ。