広静堂のイムギ(大蟒)

崔仁鶴『朝鮮伝説集』原文

済州島の大静山房の道端に、一つの淫祠がある。この祠の神体はイムギ(大蟒=大蛇)で、誰でもこの祠の前を通るときには礼をするか、下馬して歩かなければいけない。さもなければ、馬のひづめが地面にくっつけられ、動けなくなるといわれる。

麒朝の粛宗二十八年に、牧使・李衡祥がここに赴き、ちょうど祠の前を通りかかった。部下たちが牧使に「ここには淫祠があります。下馬して歩かないと馬が動けなくなります」と告げた。しかし、牧使はこの話を聞かず、乗馬したまま通ろうすると、はたして馬が動かないので、牧使もやむをえず下馬して、その祠に向って礼をした後、巫女たちを呼んできた。そして馬の首を切り落とし、それを祭物にして祭りを捧げ、是非とも神体を見せてくれるよう願った。すると、いきなり大きなうわばみが現われ、司命旗を噛もうとするので牧使はすぐ剣を取りだし、うわばみを切り殺し、火で焼かせた。

現在も、その広静堂の人たちは、相変らずその淫祠で祭りを行うという。

崔 常寿採集 一九三五年七月
李 圭説 済州道済州邑内

崔仁鶴(チェ・インハク)『朝鮮伝説集』(日本放送出版協会)より