森島と大蛇

韓国:済州島

済州島の正房滝は、水が海に落ちるので有名である。この滝の向い側の海に森島がある。昔、この島には大きな耳のある真赤な大蛇が住んでいた。この大蛇は龍になるのが一生の望みであった。それで大蛇は、毎月旧暦の三日と八日には、龍王に龍にならせてくれるよう祈りを捧げた。ついに龍王も大蛇の望みを受け入れ「森島と地帰島の間に夜光珠を隠しておいた。それを探しだせば望みを叶えてやろう」と条件つきで許可した。

大蛇は夜光珠を探しはじめた。しかし、夜光珠は見つからなかった。百年の歳月が過ぎても無駄であった。大蛇は疲れはてて龍になりたい望みと夜光珠に対する恨みをだいたまま死んでしまった。そして死んだ大蛇の魂は森島にとどまった。それからは、雨が降りそうな時は森島の上空にはいつも霧がたなびくのであった。

島の人たちは、山の峰に堂を建てて毎月三日と八日に祭りを行った。このように蛇神を奉る堂を、ここでは八日堂と呼んできた。

秦聖麒採集 一九五九年八月
金泰国 済州道西帰邑西帰里

崔仁鶴(チェ・インハク)『朝鮮伝説集』(日本放送出版協会)より原文


蔚珍郡の聖留窟の大蛇は、同じく昇天して龍になろうとしているのだが、そちらでは「夜光珠」はその大蛇の口内に育つものであった。。

聖留窟の大蛇
韓国:慶尚北道蔚珍郡近南面九山里:聖留窟には昇天を望む大蛇がいた。龍になろうとする大蛇は夜光珠という宝玉を持つという。

ところが、これが済州島の方に行くと、少し色合いが違ってくる。夜光珠は、「体内で発生する」というものではなくなっており、龍王から与えられるものになっている。島と島の間に隠したというのだから海中なんだろう。そうなると、蛇石の系というより、真珠などの海の宝石の方向にシフトした結果じゃないかと単純に見れば思う。この解釈は難しいので今は紹介するだけにするが、何かこの変転には意味がありあそうだ。

いずれにしても、このような二地域で「夜光珠」が同じく大蛇の昇天にまつわり語られているわけで、そのような位置づけの竜蛇の宝の石のイメージが韓国朝鮮にはあるようだ。特に、昇天に強く結び付けてその発生が説明されるというのはかなり特徴的かもしれない。