龍頭岩

韓国:慶尚北道迎日郡義昌面竹川洞

東海岸に位置している慶尚北道迎日郡義昌面竹川洞には、ソハン洞との境に龍頭岩という岩がある。まるで龍の頭部のようだとしてこのように呼ばれている。

ところが、この竹川洞とソハン洞は共に漁村であるが、秋になって漁の盛り上がる時期になると、互いに道具をもって争いをする。それは龍頭岩の位置が、互いの利権につながるためである。もし龍頭岩が竹川洞に向っていると、竹川洞はその年に豊漁になるといわれる。それで相手に気づかれないよう、密かに龍頭岩を自分の村に向けさせ、固定しようとするために、頻繁に争いが起こるという。たまには互いに譲り合い、両村の中央に向かせるともいわれている。

柳増善採集 一九六六年八月十四日
金英愛(女五一)慶尚北道迎日郡義昌面竹川洞

崔仁鶴(チェ・インハク)『朝鮮伝説集』(日本放送出版協会)より原文


場所は半島の南東側。今は浦項市となっているようだ。ちなみに「洞」はあちらで町・村をいう行政区画のことで「洞窟」ではない。

竜の頭の形をした岩などが信仰の対象となるが、この竜の頭の向きというのも「向いていると良い・良くない」の双方が語られる。竹川洞では、このように龍の頭の岩が向いた方に漁があるとして、隣り合った漁村で取り合いが起こっていたという。一見風水だが、済州島などでは地上の地形からつながる海底の地形に沿って漁場が規定されるというから、そういう意味合いもあるかもしれない。

これが例えば本邦では『宇治拾遺物語』「巻第二 三 静観僧正大嶽の岩祈り失ふ事」に見るように、「向く方に祟る」という話にもなる(龍頭岩の向いている方の僧たちが相次いで死んでいったので、静観僧正が加持祈祷し岩を砕く、という話)。

より広くはこれは「神の向く方向」に関する話となり、韓国でも済州島などに祠の前を通る時は下馬しないと云々という伝がある。おそらく朝鮮半島全体でも相反する話があるものと思われ、このモチーフも比較対象の好例となるだろう。