ウルソーの悪龍

韓国:慶尚北道大邱広域市

慶尚北道漆谷郡に法聖洞という村があり、その村より少し離れた谷間には二つのウル沼(ソ)がある。大きい方の沼にはイシミーが棲んでおり、運が悪いと沼で足を洗っていてこのイシミーに引き込まれて死ぬこともあり、村では近年まで毎年処女を供養していたという。

このイシミーを捕るには、強力な壮丁が全身に白馬の血を塗り、さかうろこのついた鉄製の手甲をはめて沼の中に入る。馬の血が大嫌いなイシミーは逃げ回るが、追い込むと噛みついてくる。その時にさかうろこの手甲を口に入れ手だけ抜き取ると、イシミーは手甲を呑んで死ぬのだ。

イシミーは幾千年以上経った大蛇で、全身うろこが生え、ひげと両耳とを生やし、頭の大きさは箕のようで、体は蛇のように長いものであるといわれている。

(一九三〇年三月、大邱府南町八六、李在洋君談)

孫 晋泰『朝鮮の民話』岩崎書店より要約


この地は現在慶尚北道の中心大邱広域市に入っているようだ。そこにこのイシミーという竜蛇のような怪物がおったという話。捕らえ方の具体的な方法といい、どうも何か本当にいたという雰囲気の話だ。

そのイシミーの捕え方が語られ、馬との関係が出てきているが、イシミーは白馬の血を嫌っている。しかし、一方で朝鮮半島では、竜蛇(特に龍)は白馬が大好きだからといって、白馬を餌に龍を一本釣りするような話もある。ここにも好き嫌いの両面があるのだ。

ちなみに、この話は旧版ではタイトルが「ウルソーの悪亀」となっていて、本文中にイシミーという名について「悪童といわれるものであろう」と注釈があるが、共に親版では「悪龍」になっていて、亀や童は単なる誤植であったようだ。