夜来者

韓国:慶尚南道東莱郡

昔、慶尚南道東莱村に一人の長者が住んでいた。彼には一人娘がいた。

ある日、娘の寝室に一人の少年が忍び込み、夜明け前に立ち去った。怪しいことに少年の体はいつも冷えていた。それから少年は毎夜やってきた。ある日、父が夜、便所に行って部屋に戻るとき、娘の部屋の窓に男の影が映っているのをみて、翌る日、娘を呼んで問うと、娘は事実を打ち明けた。父は事情を聞いた後、それはただごとではないと思い「今晩もその男がやってくるから、彼の袖にこの針を差しなさい」といった。

はたしてその晩も、少年はやってきた。父がいうとおり針を彼の袖に差すと、彼はびっくりした様子でただちに逃げ去ってしまった。

翌る日の朝、娘の父が針につけた糸をたどって行ってみると、裏山の森の中に大きな穴があって、そこに大きくて白い青大将一匹が針に刺され死んでいた。彼はただちに下男に命じてその死んだ青大将を焼き払えといった。それからは、娘の寝室に忍び込む者はなかったという。

崔常寿採集 一九二九年十月
金永祚 慶尚南道東莱郡東莱面校洞

崔仁鶴(チェ・インハク)『朝鮮伝説集』(日本放送出版協会)より原文


朝鮮半島の蛇聟譚。この『朝鮮伝説集』では、このような異類聟の話全般に「夜来者」の名があてられている。あるいは、そういう名の話の形式なのかもしれない。このような異類聟の話は、この地でも大変よく語られる(やはり蛇聟が多い)。

さて、話全体としては日本の蛇聟に良く似ている、という以上特に目を見張る所もないと思うが、一点、針によって蛇が死んでいるというところをよく見ておきたい。針がフィジカルに致命的な武器として描かれているわけではなく、これは明らかに呪術的に蛇は針で死ぬものだという光景だ。

日本ではおなじみな「金気を嫌う竜蛇」のモチーフなのだが、朝鮮半島でもその事情は同じなのだ(日本程この筋が多いようには見えないが)。そして、風水文化の国らしく、はっきりその関係を「相剋」というものもある。

針と大蛇
韓国:慶南東莱郡亀浦:富豪の娘の所へ夜な夜な訪れる美男に針糸をつけて辿ると、その正体は大きなうわばみだった。