美女蛇と白ムカデ

中国

昔、コオロギ相撲の好きな若者が、コオロギ捕りをしていて白ムカデを捕まえた。見たこともなかったので飼い始め、コオロギより面白くなって可愛がるようになり、どこに行くにも連れて歩くようになった。

この若者が都の科挙の試験に赴いた際、とある山奥で自分の名を呼ぶ声を聞いた。人などいない山奥で不思議に思いながら山を抜け、小さな集落で宿をとると、村人が山で名を呼ばれなかったか、と尋ねてきた。

呼ばれ、返事をした、と若者が答えると、村人はおびえ、君の命はおしまいだという。山には美女蛇という化け物がいて、旅人の名を呼び、返事をしたものを食うのだ、といった。気の毒だが、もうどこへ逃げても無駄だ、と村人はいい、そのような旅人のために用意された小屋へ若者を泊らせた。

若者は美女蛇を恐れ、震えながら夜を過ごした。もう飼ってやれないからと白ムカデを逃がし、ちゃんと生きていけるだろうかと心配し涙した。そして、おびえ疲れて眠ってしまい、目を覚ますと食われることなく朝の日が差していた。

若者が小屋の外に出ると、大きな美女蛇が屋根の上で死んでいて、その隣に白ムカデが死んでいた。白ムカデが美女蛇を噛み殺し、自分もまた美女蛇に噛み殺されてしまったのだった。若者は喜びと悲しみで泣き笑いした。
『鬼哥哥』「美人蛇和白蜈蚣」

『中国昔話集1』(平凡社東洋文庫)より要約


残念ながら、現状広い中国大陸のどのあたりの話でいつごろの話なのかなどは分からない。底本の『鬼哥哥』は1930年に出版されたもの。

中国朝鮮には、このように竜蛇と百足と人が関係する際、百足の方がより人に近しいポジションとして語られるものがままある。日本ではまずない感覚なので、よく承知しておかなくてはならない(もちろん、蛇使いの飼う蛇が主人を救う報恩譚なども同時に多々あり、別に蛇が人に敵対する傾向が著しく強い、ということではない)。

「美女蛇」は「身体は蛇だが、顔は美女だ」という中国ではおなじみの「顔だけ人」の蛇体であるようだ。ちなみに、名を呼ばれても返事をしなければ無事で済むという。