伝説 蛇岩

山口県下関市:旧豊浦町

昔、磯上の辻に大きな蛇が皿をもうた形をした岩があった。どう見ても本当の蛇にそっくりで、夜になると這い出すという人もいて、夕方になるとその道を通る者はいなくなった。

湧田のある正直者が、昼にそこを通ると、評判の岩が信玄袋に見えた。近づいてみるとやはり信玄袋だったので担いで帰った。家で開いてみると、驚いたことに袋の中にはお金や珍品がたくさん入っていた。

正直者はすぐ地下役人に見せて役所に届けたが、置き主は見つからず、袋は正直者の物になった。正直者は、そのお金を地下に寄付して湧田の開発のために使ってもらい、自分も残りの金で安楽に暮したという。

『豊浦町史 三 民俗編』より要約


蛇が福富をもたらすという俗信そのものは色々ある。殊に夢に関していうが、結果本当に「お金」が手に入ったという話は少ない。

蛇の夢
広島県府中市内:旧上下町:大蛇に追われる夢を見たら、お金が送られてきた。

さらに事例が少ないのはこの豊浦の話のような、蛇が(岩だが)直接金銭をもたらすという話だろう。蛇が富をもたらすこと自体は広く根深く信じられているのだが、なぜか直接的な話の展開というのは少ないのだ。そういった意味で貴重な話であり、所謂「大歳の火」の話系などの方へも視野を向けてとらえておきたいところである。

ところで、この話にはもう一点注意しておきたいところがある。冒頭の蛇岩の様子を語ったところで、それを「大きな蛇が皿をもうた形」といっているところだ。「もうた」は「巻いた・回った」というような語であると思われ、すなわち「皿が巻いたような・皿が回ったような」と蛇岩の状態を表現していることになる。

蛇に関して「さらき(さらこ・さらけ)」という語がそのとぐろの状態を示しているのではないかという問題があるが、この豊浦にはその表現の実例が生き残っていた可能性がある。