白蛇のたたりの話

和歌山県日高郡日高町比井

比井の一行寺の裏手に大将軍跡と呼ばれている所がある。この社は大将軍星をお祭りしていたと言われ、夜中ひそかにお渡りするならわしであったが、お渡りはだれも見てはならないと言われていた。ところがある年、平吉という漁師が戒めを破ってこっそり見てしまった。お渡りの行列は人間ではなく白い蛇であった。びっくりした平吉は、そのまま病気になって間もなく死んだ。家族の者も白蛇のたたりでつぎつぎに変死して家は絶えてしまったという。

『日高町誌 下巻』より原文


大将軍とは陰陽道の八方位を司る神の一であり、金曜星、金星にあたる。簡単にいえば方位神であり、大将軍のいる方位は総じて凶だという。そして、大将軍は三年毎に位置を変えると言われるのだが、それがこの話の「お渡り」であろうと思われる。

すなわち陰陽道の凶方位の移動を「白蛇の渡り」とした話なのだ。この方位神(八将神)はもちろん京を中心によく祀られたのだけれど、こういった話はよくあるものなのだろうか。より漠然と良くない神霊に「行き遭う」話と、ソリッドな方位信仰の中間にこの伝説は来るようで、大変面白い。

もしこのような話がそこそこあるようならば、大蛇と行き遭って障られる話、大蛇の渡りの話の中に、その影響を受けたものがあるかもしれない、という視点が必要となるだろう。