三井寺の鐘(鐘になる蛇)

滋賀県蒲生郡竜王町

亀さんという人が嫁を死なせて、子守りをしていると、子供が小さい蛇をなぶり殺ししようとしているので蛇を買って川へ逃がしてやった。しばらくして、美しい女が亀さんの家へ来て、自分の乳が張るから子供にあげようと言って、子供の乳のいる間世話をしてくれる。

亀さんが嫁になってくれと頼んでも「女房にはなれない」と言い、子供の乳がいらなくなると暇をもらうと言って帰ってしまう。亀さんが後を付けてゆくと、海に向って飛びこんだのである。普通の人ではないと思う。

女は「正体を見つけられた」と言って、もう二度とは来ないが、自分は三井寺の鐘になっているので鐘をついて思い出してくれと言い残す。それで、三井寺の鐘の正体は琵琶湖の竜神だといわれている。(『竜王町のむかし話』)

みずうみ書房『日本伝説大系8』より


よく知られた蛇女房譚の典型話である「三井寺の鐘」と同じ舞台の話。典型話の方は以下参照。

三井寺の鐘
滋賀県近江八幡市:蛇女房譚の典型話。子を育てるために目玉をなくした母蛇のために鐘が撞かれる。

『大系』はこちらの「鐘になる蛇」の話が表題話となっている。これは「蛇女房」というより「蛇報恩」といった方が妥当かもしれない(女房にはなっていないし、子も蛇の子ではない)。

そしてなにより興味深いのは「三井寺の鐘の正体は琵琶湖の竜神」といっていることだ。実は、三井寺の鐘はもとより竜宮と縁が深い。それは俵藤太が竜宮から得たという話もあるのだ(こちらの方が出典は古い)。