滝沢の蛇玉

静岡県藤枝市滝沢

滝沢の岡村栄太郎方に蛇玉と云つて透明の玉がある。この由来を駿国雑志には次のように書いてある。

この村の或る農家の広い屋敷内で何百匹かの蛇が斗つていたことがあつた。その跡に鶏卵大の薄紫色の玉が落ちていたので主人は拾つて隠して置いた。それがいつの間にか近所に洩れて「玉を見せてくれ」と云つて来たが、その家の主人は「無くなつた」と云つて誰にも見せなかつたが、世間ではこの家のどこかに隠しているに違いないと噂していた。

松尾書店『史話と伝説 中部篇』より原文


蛇石の話。こうしてたくさんの蛇がだまになっている中にそれはあり、手に入れると富を得る、という伝説は日本だけでなく世界的にある。これもそういった点ではその一例という話である。しかし、ここ滝沢村にはもう一家、「鹿玉」を持っていた家があったという伝があり、併せ見ると面白い。

鹿玉
静岡県藤枝市滝沢:滝沢村のある家には、五ツ又の角をもった鹿の腹から得たという鹿玉があった。

そもそも、蛇石というのは鉱石状のものと中空の卵の殻状のものとがあるが、前者は山羊などの胃石であることが多かったと思われる。同じ村に並び蔵されていたというのは面白いだろう。