水蜘蛛

岐阜県郡上市内:旧美並村

深戸のどや渕に主争いがあった。西乙原の畑佐某という家のお爺に、水蜘蛛が夢枕に立って「どうか今夜、夜中にうなぎがわしを攻めてくるので応援してくれ、応援してくれればわしは勝つが、応援してくれなければうなぎに負ける、ひとつ応援を頼む」といって消えた。

お爺は水蜘蛛なんて実際に見たこともないし、どや渕に蜘蛛がおるの、うなぎがおるのとも知らないので、何だ夢か、ぐらいにしか考えていなかった。しかし、ものは試しと思いお爺が行って見た時は、水蜘蛛は負けて殺されて浮いておったという。お爺の家は今では身上をなくしてしまった。(上苅安)

『美並村史 通史編下巻』より原文


このような鰻・蛇などながものと蜘蛛・蟹・亀などのヌシが争い、人間に助勢を請う(結果人の助勢が失敗する)という伝説は、三陸から東北に多くあるが、他ではあまり聞かない。美並のこの話はお爺が夢かと思って助勢しなかった、という結末からして同系話だと言えるだろう。

しかし、問題なのがその助勢を乞う水怪である。三陸の方では、概ね「ながもの」の方が人に合力を頼んでくるのだ。美並ではこれが水蜘蛛の方であり、明らかに逆である。

源兵衛淵
宮城県仙台市青葉区:蜘蛛との合戦を控えた鰻から合力を頼まれた猟師源兵衛は、しかし恐怖から務めを果たせずに鰻を死なせてしまう。

この話は、俵藤太伝説や日光・赤城の神争いの話の亜流ではないか、という面があり、こういった逆転現象には注目しておきたい。なお、同美並では河童が蜘蛛と化して賢淵をやってもいる。この傾向も併せて見ておきたい。

河童(どちろべい)
岐阜県郡上市内:旧美並村:美並では河童を「どちろべい」とか「かわやろ」などと呼び、いくつか興味深い特徴を伝えている。