神奈川県横須賀市長沢
長沢海岸の沖合いに三つ磯といわれるところがある。昔、長沢の本行寺の裏山に雄の大蛇が棲んでいて海をへだてた房州の鋸山の雌の大蛇に恋いをしたという。雄の大蛇は、なんとかして会いに行きたいと思ったが、潮の流れが速く泳ぎきる自信がなかった。
それでも雌の大蛇が鋸山に登ってしきりに招いているので、雄の大蛇は、飛び石づたいに海を渡ろうと石を運びだした。しかし、あまりに重いので投げ捨ててひき帰し、結局房州行きを断念した。三つ磯は、その大蛇が運んだ石という。
角川書店『日本の伝説20 神奈川の伝説』より要約
各地に海に橋を架けようとして岩を立てる(あるいは連島の由来となる)話があり、神仏であったり鬼であったりが奮闘するが、このように竜蛇も同じようなことをする。
もっとも、伝説の三つ磯の岩礁も今は護岸壁の一部としてかすかに波が立っている程度で、海上に岩がにょきにょきあるわけではないが。ちなみに本行寺裏には池跡がある。貯水池としてあり、普段は湿地のようになっている。また、本行寺にはこの伝説の大蛇を祀ったと思われる八大竜王の宮もある。
さて、この話で最も気を付けておきたいのは、巨人伝説との関係、という点だ。なんとなれば、ここ長沢は、三浦半島から房総半島へデーボコ坊という巨人が渡って行った場所だという伝説もあるからだ。東京湾対岸市原には「三浦から渡ってきた」の伝がある。
各地の巨人伝説では、その巨人が運んだ土くれが落ちたり、大岩が落ちたりして、それが塚や岩山などの由来として語られるが、この長沢の大蛇の行為にはそれに近しいものが感じられる。
より巨人伝説らしい内容となっているものとしては、越後の恋破れて怒り心頭する大蛇の話があるので、そちらなどを参照に結び付けて考えたい。