宇賀神の由来

東京都三鷹市

昔、井の頭の近郷に鈴木左内という長者が住んでいた。何不自由ない身分であったが、子がなく、日ごろから信仰していた弁財天に子授けを祈願した。すると間もなく玉の様な女の子が生まれ、美しく育った。そして婿取りの話が出るようになったある日、娘は弁天へひとりで詣でたいと言う。

長者夫婦は許し、馬子だけを連れて娘は弁天へ向った。弁天堂に着くと娘は馬子に、一人でしばらく籠るので決して堂の方を見ないようにと告げる。馬子が不審に思いながらも来た方を向き、少し戻ろうとすると背後で凄まじい水音がした。

ふり返った馬子が見たのは、顔は人のまま、体が巨大な白蛇となって水中に沈んでゆく娘の姿だった。話を聞いた長者は、子のない自分たちを哀れんだ弁天さまがお使いの白蛇を娘にしてくださったのだろうと嘆き、人面蛇身の石像を弁財天に寄進した。

山田書院『日本の伝説5 東京』より要約


人の娘が蛇体になる話もいろいろあるが、蛇聟・蛇女房と妄執の果てに蛇となる、という話を除くと、概ね「蛇娘」とでもいうようなものとなる。これには大まかに二つの流れがあって、子のない夫婦が水神などに祈願して授かった娘が蛇体となる、というのがまずある。これはその娘は祈願に応じて竜蛇神なりそのお使い蛇なりが、一時人の娘の姿をとっていたのだと語られる。つまりは蛇になるというより蛇に戻るという話だ。この井の頭弁天の話はその典型話といえる。

そして一方に、もともと人の娘であったものが、蛇に見込まれて(ないし親の罪の因果で)蛇体となる、という筋がある。この典型話は以下の土佐の話を参照。

弁才天
高知県土佐郡土佐町:池の蛇に見込まれて入水し、自らも蛇となる娘の話。