金売り吉次

『印旛村史 通史 II』原文

昔、奥州の商人金売り吉次が萩原の荒神左近の家に泊った。吉次は砂金を商いとしており、いつも大金を持ち歩いていた。左近はこの大金に眼をつけ、印旛沼を船で渡す途中、吉次を殺して所持金を奪い取った。数か月後、兄の行方を探しているといって吉次の弟吉兵衛が萩原にやって来た。吉次の足跡はこの地で止まっているため、真相がばれるのを恐れた左近は、吉兵衛をも船上で殺した。それから数か月後、もう一人の弟吉三郎が訪ねて来たので、これも同様に殺してしまった。その後、左近の家のイロリ(囲炉裏)にかかるジザイカギ(自在鉤)に、三匹の蛇がまとわりつくようになった。一匹は赤い蛇、一匹は黒い蛇、一匹は白い蛇である。左近は吉次兄弟を殺したたたりだと思い、印旛沼の近くに墓を建てて供養した。それからは蛇は姿を現さなくなったが、屋根替えのときに屋根をほごしたところ、三匹の蛇が固まっていたのである。以後、同家では屋根替えの際は全部同時にするのではなく、半分ずつ行って蛇の居場所を残したという。

なお、本埜村に吉次オッポリと呼ぶ沼がある。ここはもと吉次たちの墓が建っていた場所であったが、江戸時代に印旛沼の洪水で堤が切れ、沼となった所と伝えられる。

『印旛村史 通史 II』より