つばめの恩がえし

千葉県木更津市富士見

昔、成就寺は蛇の巣と言われるほどで、村の人たちがマムシに咬まれたりで大変困っていた。何代目かの和尚さんのときの話。

成就寺にはツバメがよく来、その春も本堂の軒に巣をかけたが、糞のために和尚さんは困っていた。そこで、和尚さんはツバメに、来年も来るなら本尊様にお礼をしなさい、とこんこんと説いた。

明くる年、また春になってやってきたツバメたちの一羽が和尚さんの肩にとまり、見慣れないケシツブのようなものをくれた。本当に礼の土産を持ってきたのかと和尚さんは感心し、南国の珍しい花でも咲くのだろうと境内に播いた。

ところがふた月たっても芽も出ないので和尚さんが掘り返してみると、糸屑でもくるめたような蛇の子がウヨウヨしていた。お礼かと思っていた和尚さんは大変がっかりして、ひどいツバメだと腹を立てた。

しかし、不思議なことに、それから成就寺の蛇に咬まれたという人が出なくなった。その蛇の子は、南国の人を咬まない蛇の子で、ツバメは成就寺の悪い蛇の種を絶やすべくその蛇の子を持ち帰ったのだった。

事の真相を知った和尚さんは、ツバメの行為に感激し、腹を立てた自分を反省し、ご本尊様にツバメのことを申し上げた。そして、お経を唱えてツバメの功徳を讃え、同時に駆逐された悪いマムシたちの供養も行った。

『木更津市史』より要約


ちなみにこの成就寺は「満足山」という大変おめでたい山号のお寺であります。

さて、このような「お寺に巣をかけるツバメに和尚さんがお礼をしろという」話は岐阜や宮城でも語られている。そして、必ず蛇が関係するのだが、そちらなどではツバメが瓜の種を土産に持ってきて、成った瓜(南瓜)を割ったら蛇がうじゃうじゃ出てくる、という話になっている。

蛇沼の話
宮城県石巻市内:旧河北町:和尚さんにお礼をしろと言われた燕が持ち帰った種から成った南瓜から蛇が生まれ、大水となってしまう。

これが長らく意味が分からない話だったのだが、木更津に少しニュアンスの違う同系話がこうしてあったということで、少し比較してみるという進展が得られた。重要な瓜が出てこないのではあるが、大筋として「ツバメは恩返しをした」と読んでよいだろう。

もし、この大筋が他の意味のよくわからない展開にも共有される構成であるとしたら、瓜から蛇が出て大水となることも、本来はツバメが湧水をもたらした、というような恩返しの筋でまとまっていたのかもしれない、と考えられる。

もっともまだ二つ目の筋が出てきて突き合わせてみたら、というだけなので本当にそう考えてよいのかどうかは分からないが、全く手掛かりなしからは一歩前進といえる一話だろう。