青い薬草

北朝鮮・咸鏡南道金策市

昔、やさしい老人が、川辺で流されてきた鹿を助けた。その後、すぐに蛇も流されてきて、さらに人の男の子も流されてきた。老人はみな助けて岸辺に上げてやった。鹿と蛇は感謝の表情をして森の中に消えたが、少年は行くところがないので、老人の養子となった。

ある日、鹿が来て老人を導き、山奥にいたって、地面を掘れ、という。掘ると金銀財宝の詰まった甕があり、老人は金持ちになった。ところが、養子は段々悪い人間になり、この財産を浪費し、しまいには全部をくれ、と言い出した。

老人がこれに怒ったので、養子は恨んで役所に行き、養父は盗みをたくさん働いたのだ、とうその告発をした。それで老人は監獄に入れられ、拷問を受けた。すると、そこに蛇がきて、老人の腕を咬んだ。

すぐに毒で腕は腫れあがり、老人は恩知らずな蛇め、と思ったが、また蛇が現れて、持ってきた草を老人の痛い手にすりこむと、嘘のように腫れが引いて治った。蛇は毒消しの薬草を教えたのだ。

そしてすぐ後、王の母が毒蛇にかまれて死にそうだ、という知らせがあった。老人は自分が助けて見せようといい、蛇の薬草で王の母を治した。王は感謝し、老人が監獄にいる次第を聞いて、養子を逮捕し、老人を釈放した。それから老人は一生幸せに暮らした。

崔仁鶴・厳鎔姫『韓国昔話集成2』
(悠書館)より要約

咸鏡南道からソウルに来た人の語った話とあるので、そちらの話としたが、取り立てて所を定めずに半島広くで語られる昔話のようだ。と、いうよりも、動物も恩を返すのに、それを仇で返す人間、という主題で、仏教説話としてインドから広がっている話ではある。

それで、日本でも各地で語られる、というのだが、このような恩返しに蛇が薬草をもたらす、というストレートな筋はあまり見ない。このように朝鮮半島までは来ているのに、どこかそのままでは受け入れがたいところがあったのだろう。

また、この話自体、蛇の恩返しの話である以前に、蛇は不死の法を知っている、というより根本的な主題の変奏であるともいえる。「毒消し」から外れたところでの蛇の知が語れる話があれば、より注目すべきかもしれない。