如意珠と青大将

原文

むかし、ある若者が麦畑に小便をしようと、小便桶を持って行く途中、雄の雉が飛べずにもがいている姿を見た。よく見ると、蛇に咬まれたようだった。若者は雉を家に持って帰り、料理をして妻と一緒に食べた。すると、妻はすぐ妊娠した。そして月日が満ちて、息子を生んだ。若者は、「子は明らかに雄の雉を食べて妊娠をしたので、雄雉と名前をつけよう」と言って雄雉と名づけた。子どもはよく成長して、やっと年が満ち、新婦を迎えるようになった。そして結婚式で新郎は新婦の家に行くことになった。途中、峠を越えようとする時に、「雄雉よ、雄雉よ」と言う声がした。新郎はその声がするところへ行ってみると、そこに洞窟があった。洞窟の中には青大将が一匹、とぐろを巻いていた。そして新郎を見て言った。

「お前は、むかし、私が食べようとしたものを奪い、食べて生まれたから、お前を生かしておくわけにいかない。今、お前を食ってしまうから覚悟しろ」と言ったとたん、青大将は口をぱくっと開けた。新郎は、「ちょっと待ってくれ。それは私の父がしたことだ。今、私を捕まえて食べてもいい。しかし今日は結婚式だ。こんな良い日に人を殺すとは、どんなに青大将だといっても、これは度をすぎたことではないか」と言った。

青大将もその話には道理があると思ったようで、「わかった。では一日だけお前の命を延ばしてやる。しかし明日には自分でここに来い」と強く言った。新郎は承諾して、その場をすぐ離れた。

結婚式が終わって、初夜になった。新婦が見ると新郎の様子がおかしかった。

「あなたの顔を見ると、何か心配があるようですが、私に話してはくれませんか」と言った。新郎は仕方なく新婦に全部話した。

話を聞いた新婦は、「心配しないでください。私がついて行きます」と言って新郎を慰めた。次の日、二人で青大将が待っている山に行った。青大将は待っていた。

「よく来たな。では約束通りに、お前を食べていいか」と青大将は口を大きく開けた。この時、新婦は、「ふん、そんなことができるわけがない。この若者を食べるのは、お前次第だが、この若者が私の夫である以上、私が一生食べていくことを保障してくれなければ、夫を渡すことはできない」と言った。

青大将は考えてみるとそれもそうで、新婦に、

「わかったから、私の口の中にある珠を取り出してみろ」と言いながら口を開けた。綺麗な珠が、青大将の口の中の天井についていた。新婦は手を口の中に入れて、その珠を取り出した。

「さあ、願い通りにしてやったんだから、もうこの若者をどうしてもいいな」と青大将は食べる態勢になった。すると新婦は、「ちょっと待って。この珠を使う方法を教えてください」

「この珠には穴がある。穴に向かって必要なことを言うと、何でも出てくる魔法の玉なんだ」と言って、四つの穴の中の三つ目まで教えてくれた。しかし最後の一つを教えてくれなかった。

「この四つ目の穴の使い方を教えてくれないと、この若者を食べさせることはできない」と言うと、青大将は仕方なく、「この四つ目の穴は、誰でも殺せる穴で、誰々死ねと言うとすぐ死ぬ穴なのさ」

この言葉が終るやいなや、新婦は四つ目の穴に向かって、「青大将、死ね」と叫んだ。すると青大将は、その場で死んでしまった。若者は危ない時に命が助かった。それで二人は村にもどって、幸せに過ごしたという。(崔仁鶴 一九八〇B)

 

【文献資料】1.一九八〇年B 一九三〜九七頁(一九七三年八月に、江原道原城郡で李鎬泰〔三十八歳〕から聞く)

2.任東権 一四九〜五一頁(一九五四年に慶尚北道大邱で記録)

3.朴英晩 七九〜八四頁

4.任皙宰 一九七八年 二一四〜二七頁

     一九八七年 第一巻 一五八〜六二頁(一九二七年に平安北道楚山で記録)

5.崔雲植 四四〜四六頁(一九七九年に忠清南道青陽で記録)

 

【話型構成】省略

 

【解説】窮地に陥った夫を、妻が知恵の力で救う話です。蛇が口の中に隠している如意珠は、本来は仏教で仏や仏の教え象徴とされる霊験あらたかな宝の珠です。日本では「犬と猫と指輪」(大成165)の類話に指輪のかわりに登場する程度で、あまり登場の機会はありません。

韓国の場合は、如意珠は龍や蛇にとって大切な宝で、これがないと天に昇ることができないといわれます。この話に登場する青大将は、妻の口車にのって如意珠を渡してしまうばかりか、その秘密を明かして退治されてしまいます。【崔・樋口】

崔仁鶴・厳鎔姫『韓国昔話集成3』
(悠書館)より