ウルソーの悪龍

原文

慶尚北道漆谷郡の松林寺から約十里(日本の約一里)の処に法聖洞という村があり、その村より少し離れた谷間には二つのウル沼(ソ)がある。沼の両側には絶壁がそびえ立ち、絶壁の下には岩穴があって、その中には今でも虎がすんでいるといわれている。沼は大きい方を大ウル沼といい小さい方を小ウル沼というが、大きい沼は十坪ほどの広さであって、その中には俗にいわゆるイシミー(悪童といわれるものであろう)がすみ、たまたま運の悪い人が足などを沼で洗うとイシミーのために引っぱり込まれて死ぬこともある。このイシミーのために法聖洞の人は最近まで毎年一人づつの処女を供養したそうで、これはただの伝説ではなく真の事実であったとその村の老人たちはいっていた。私もそこへ行って遊んだことがあるが、このイシミーというのをとろうとするには、強力な壮丁が全身に白馬の血を塗り、さかうろこのついた鉄製の手甲をはめて沼の中に踊り入れば、イシミーは馬の血が大嫌いなのではじめのうちは逃げまわるが、どんどん挑戦すると次第におこり出して、ついにその人の手をかむようになる。そのとき手を引くと、手甲のさかうろこが動物の歯にかかって、手袋だけがその口の中に残るようになり、動物はそれをのんで死ぬのである。イシミーは幾千年以上経った大蛇で、全身うろこが生え、ひげと両耳とを生やし、頭の大きさは箕のやうで、体は蛇のように長いものであるといわれている。 (一九三〇年三月、大邱府南町八六、李在洋君談)

孫晋泰『朝鮮の民話』(岩崎書店)より