イシミの大蛇の夜光珠

原文

蔚珍郡近南面九山里には、近年有名になった聖留窟という鍾乳洞がある。この伝説は、その洞窟にまつわるもので、昔はこの洞窟にあやまって近づくと、命も失しかねないと言われていた。それは、この洞窟の中にある深い池に土地の方言では「イシミ」という巨大な大蛇(大きな青大将)が住んでおり、人が近づくのを妨げたからだという。この大蛇は、まもなく龍になり、昇天する日を待っていたのだが、人がそれを目撃すれば、龍になれないからだった。

ところで、近所の村に天下無敵の壮士で、洪氏の姓を持つチョンガ(独身男)が住んでおり、龍になって昇天しようとする大蛇の口の中にある夜光珠をとろうとした。これさえあれば、何でも願いが叶えられると聞いたからだ。ある日、大きなクヌギの木の棒をもって、この洞窟に行った。いくらもしないうちに大蛇が現れたが、とても巨大で、頭から尻尾までが一目に入らない。洪氏のチョンガはあっという間に大蛇の口の中にのみ込まれたが、それでも気だけはしっかり持って、棒を握ったまま、死ぬ時を待っていた。ところが、幸いにもその棒が大蛇の喉に引っかかった。彼は気を取り直して、大蛇の喉を探った。やはり、夜光珠は見えたのは見えたのだが、まだ出来上がる途中だった。使い物にならないと思い、そのまま逃げてきた。その後、洪氏のチョンガはたまたま病気にかかり、長く病気を患って、ついに息を引き取り、大蛇は龍になって昇天したという。(柳増善 一九七一)

 

【文献資料】柳増善 一二五〜二六頁(一九六七年に慶尚北道蔚珍で記録)

 

【話型構成】省略

 

【解説】韓国では、青大将が千年たつと龍となると信じられ、龍になる前の大蛇をイムギと呼んでいます。慶尚北道蔚珍では、このイムギをイシミと呼び、龍になるために夜光珠という不思議な珠を育てていたと信じていたのでしょう。昔話の世界では、主人公は見事に宝の珠を手に入れることが多いのですが、伝説では魔物に挑んだ主人公は命を落とすことが少なくありません。その意味で、これは伝説的な色彩が強い話です。【樋口】

崔仁鶴・厳鎔姫『韓国昔話集成3 本格昔話(2)』
(悠書館)より