金寧の蛇窟

原文

亡くなった人をその蛇窟の前に置いておくと、蛇が食べてしまって骨しか残らないようだ。なくなれば、それはジャンキナン〔장기남〕だと。

〔語り手の奥さん:聞いたことあるでしょう?〕

聞いたことがあると思いますが、ジャンキナンというのは、亡くなった人をその蛇窟の前に持って行き、置くということだ。ジャンキナンというのは、亡くなった人のために行う儀式のことをそういうみたいだが、その話があっているか、どうかはまだわからない。

だから、人が亡くなったら、みんなそんなふうに持って行って置いたみたいだが、そう、牧使が済州に来てその風景を見て、亡くなった人をそんなふうに扱うのはよくないことだと思ったらしい。亡くなった人に対して、それはいけないことだと思った牧使は、亡くなった人の家族もだれも知らないようにして、蛇にソガン〔서광〕を抱えさせておいた。ソガンというとたぶん、爆発するものだと思う。ソガンというのは、どんなひどい腫れ物にもよく効く薬のことだ。いくら抱えていたかは知らないが、抱えているうちに爆発して蛇が死んでしまったという話がある。また、他の人は処女を蛇窟の所に供えると、その蛇が村を平和にしてくれるという話もあるようだ。

〔語り手の奥さんが入って来て〕

「それは金寧〔김녕〕窟の歴史の話ではないんですか?」と、言った。

 そう、金寧窟の歴史の話を聞いてから、あんなふうに言っているのかも知れないが、私たちは全ての話を聞いたことがなく、短い話しか聞いたことがないので。

〔調査者〕「亡くなった人の死体を蛇窟の前に置いておくと、蛇が食べてしまっていたんですね」

「はい」

〔訳者:金恩愛〕

 

【解題】【7】の「金寧〔김녕〕の蛇窟」と題目は同じであっても、話の内容は違っている。つまり、この話は亡くなった人の死体を蛇の洞窟の前に置いておく、ジャンキナン〔장기남〕という葬礼法を着任した牧使が無くしたという話である。薬を使って蛇を殺したので、「人食い怪物を毒薬で殺す(英雄的ではない人物が自分を犠牲にしたものまで含む)」《134-2》という類型に分類されている。類話には追話には「大蛇を退治した娘」、「九藪淵のイムギ」などの十一話がある。

 

134-2 金寧の蛇窟(9-2)637

調査場所:済州特別自治道済州市吾羅洞トンサンムル

調査日:1980年10月16日

語り手:ヤン・クヒョプ〔양구협〕男・71歳

日韓比較文学研究会『翻訳 韓国口碑文学大系1』
(金壽堂出版)