龍になれなかったカンチョル

原文

むかし聞いた話だが、この前の道を行くと、街路樹の一番最後の木がある。〔調査者:街路樹の先ですか?〕街路樹の先だよ。〔指で指し示しながら〕〔聴衆:見えてるよ〕〔調査者:見えます、はい、見えます〕そこに行くと、くぼみがあり海の中に岩があったという。〔聴衆:岩だよ〕〔調査者:ああ、岩が〕山が海になり険しくなった、険しくできあがったんだよ。〔聴衆:一番そこが深かったんだね〕

そこへ降りて行くと、海の中の岩の下に、蛇がいるそうだ。〔調査者:蛇?〕

そうだ、龍になろうと、大きな蛇が住んでいたんだろう。住んでいたんだが、そいつが、龍になろうと思っていたが、龍になろうとした途端に、雨が大水になってやって来て、龍になろうとした途端に、龍になろうと山に登って行こうとし、一生懸命登っているときに、女に見られてしまったということだ。〔聴衆:女が見た〕そうして、その女が、

「龍が登って行く」

こんなふうに言ったんだよ。それで、龍になれなくて、カンチョル〔강철〕になってしまったって。

そんな伝説があったんだよ。〔聴衆:私たちが幼いときに〕〔調査者:そのカンチョルは何かほかの人に危害を加えたりはしなかった?〕そんなことは、被害は一切なかったよ。そして、龍になれずにカンチョルになった。〔聴衆:龍になれずにカンチョルだ〕〔聴衆:そして今、あの深さも……〕〔聴衆はそこが、水深も深く、今だにそこにカンチョルがいると思っている〕

〔訳者:小林純子〕

 

【解題】蛇が昇天して龍になるといわれるが、こうした話は大概、何らかの理由で昇天できず地上に棲み着いてしまい、イムギ〔이무기〕またはカンチョル〔강철〕と呼ばれるという話である。「悪いことをして滅びる(悪役の神霊、力持ち等)」(123)の上位類型から、「竜になれず横暴な振る舞いで滅びたイムギ(カンチョリ)」という類型に分類されている。類話は「穴口山のイムギ」、「イムギの話」などの八話がある。

『三国遺事』にもイムギの話が記されているのをみると、かなり古い時代から伝承されていたことがわかる。

 

123-1 龍になれなかったカンチョル(8-1)123

調査場所:慶尚南道巨済市延草面烏飛里クムグ

調査日:1979年8月2日

語り手:チェ・シッモク〔제식목〕男・65歳

 

※webのデータベース上では、「(8-1)123」ではなく「(8-1)213」

日韓比較文学研究会『翻訳 韓国口碑文学大系1』
(金壽堂出版)