龍になれなかったカンチョル

韓国・慶尚南道巨済市

昔聞いた話だが、この前の道の先の海は、山が険しく海に落ちていちばん深くなっている。そこに岩があって、その海の中の岩の下に蛇がいるそうだ。龍になろうと住んでいたのだが、龍になろうとした途端、雨が大水になって、龍になろうと山を登っていた蛇は女に見られてしまった。

その女が「龍が登って行く」といったので、龍になれなくて、カンチョルになってしまった。カンチョルはとくに人に危害を加えたりはしなかったが、今もその深い海中にいると人々は思っている。

日韓比較文学研究会『翻訳 韓国口碑文学大系1』
(金壽堂出版)より要約

慶尚南道巨済市延草面烏飛里クムグの採取とある。細かなところは文意が測りがたいところもあるが、大雑把に龍になろうとしてなれなかった蛇がカンチョル(カンチョリ・강철이)なる存在になって、今もいるのだ、という話だ。韓国には人間の女に見られると蛇が龍になれない、という定型がある。

そういった大蛇のことを韓国ではイムギ(이무기)といって、これはよく知られるがカンチョリというのもいるようだ。辞書には「一度通り過ぎれば、穀物や草木が枯れてしまうという伝説上の毒竜」(小学館『朝鮮語辞典』)とあるので、イムギより悪性が強いイメージなのかもしれない。

ちなみに『翻訳 韓国口碑文学大系1』にはこの話は「(8-1)123」と付記されているが、サイト上では「8집 1책 213」が該当する。なお、この話のデータではカンチョリ(一般に강철이)が「깡철이」と濃音表記で記されている。