福川の主

鹿児島県大島郡徳之島町

母間村の中央を福川が流れ、そのよどみに大鰻の住みかがあった。そこの主は、一匹が姿を消すと、すぐ後継ぎの一匹が現れたそうな。代々の主は重さ七、八キロはあろうかという大鰻であったという。村人たちはこの跡を絶やさぬ大鰻を「ウナンギャナシ(うなぎの神様)」と信じ、手厚く保護していた。

ある時、母間村に大火事が起こった。火の手はみるみる村中に広がり、村人は慌てふためき右往左往した。しかし、この火が大鰻のすみかまで近づいた時、小川の中央に飛び出した大鰻が、さかんに尾びれを動かし、しぶきを上げた。すると不思議なことに、燃え盛る火の手がたちまち消えていったのだという。

そんな福川も今は汚染がひどく、ウナンギャナシの姿も見あたらない。代々の大鰻のすみかであったよどみも、上流からの土砂で埋まってしまった。(『徳之島民話集』)

『日本伝説大系15』より要約

鰻に神性を見るという感覚は、中国華北や朝鮮半島にはあまり見えず、その流れは南洋のほうからのものではないかと思う。すなわち鰻の伝説が「オーストロネシア系の指標」となるのじゃないかということなのだが、実際このように奄美のほうにはウナンギャナシ(ウナンガナシ)と呼ばれるほどの鰻の話がある。