けちんぼと嫁

原文

けちんぼの男がおよめさんをもらいました。ところがめしをよけいくうといってよめを何回もとりかえました。何人めかのよめは、めしはくわずよくはたらいたので、男はこれはもうかったとよろこんでいましたが、よめが何日もめしをくわぬのでこんどはしんぱいになってきました。

男はある日、しごとにでたふりをして、家にかえってやねをこじあけて上からのぞくと、よめはおおなべにめしをたいてにぎりめしをいくつもつくり、頭のうしろにある大きな口になげこんで、うまそうにたべていました。男はおどろいてしまったがしらんかおでしごとからかえったふりをすると、よめはいつもとかわらずやさしいのです。男はきみがわるくてたまりません。

五月五日になりました。この日は、たねがしまではよめの家に、おっととよめがれいいいにいくならわしです。よめが男に、れいいいにいきましょうといい、このウスの中にすわってくださいといって男をウスの中に入れました。よめは、そのウスを頭にかんめて(のせて)外へでました。

とちゅう、池のみえるところまでくると、松のえだがたれていましたので、男はこれはありがたいとばかり、それにさばりつきました。そして松の木にのぼり、そっとみていたら、よめはウスをかんめたまま池の中へ入ってゆくのです。男はおどろき、あの女は池の主であったのかと、いろをうしなって家ににげかえりました。そしていそいであたりのしょうぶとよもぎをとって、のきのあちこちにさして屋根にのぼってみていました。やがてよめがかえってきてあたりをみまわしていうには「いつ、どこからにげたもんじゃか、家の軒も草がぼーぼーはえかぶっておる、もうもどってきそうじゃなか、じゃからまっていてもだめじゃ」こういってよめはどこかへいってしまいました。

これからというもの、しょうぶとよもぎを魔よけにのきにさすのだといわれます。またあんまりけちんぼであるとこの男のようなめにあうといわれます。(南日本新聞 '60.7.23)

『日本昔話通観25』より