けちんぼの男が嫁を貰ったが、飯をよけいに食うと不満で、何回も嫁を取り換えた。その何人目かの嫁は全く飯を食わず、よく働くので、男は儲かったと喜んだ。しかし、あまりに何日も飯を食わないので心配になり、ある日仕事に行くふりをして屋根に上り、家の中をのぞいてみた。
すると、嫁が大鍋に飯を炊いて、沢山の握り飯を作って、頭の後ろの大口で食っているのだった。男は気味が悪くてたまらなくなった。そのうち五月五日になり、種子島の習わしで嫁の家に行くことになった。それで嫁は、男にウスの中に入るように言い、そうするとそのウスを頭にかんめて(乗せて)出かけた。
道中池の見えるところに来ると、ちょうど良く松の枝が垂れていたので、男は枝につかまって松の木に上った。そして見ていると、気づかぬ嫁はウスをかんめたまま池の中へ入っていくのだった。嫁は池の主であったのかと男は色を失って家に逃げ帰り、菖蒲と蓬を軒のあちこちににさして、屋根に上った。
嫁が追いかけてきて男を探したが、どこへ逃げたのか、家の軒も草がぼーぼーに生えかぶっていて、もう戻ってきそうもない、待っていても無駄だ、と言って去った。これから、菖蒲と蓬を魔除に軒にさすようになったのだという。また、あまりけちんぼであるとこの男のような目に会うのだという。
種子島の食わず女房。池の主といっているだけで蛇だとはいっていないが、『通観』上も蛇女房型の代表話として掲載されている。食わず女房の正体が蛇という話は各地にあり(「食わず女房」)、これものそのひとつだが、南西諸島ならではの点も指摘しておきたい。
なんとなれば、同地域には、この女房の正体が「猫」である話が多いのだ。こちらのほうでは、その正体は山姥・鬼・蜘蛛・蛇というところだが、南西諸島では猫が化ける。
そして、これは同諸島から沖縄のほうののアカマタが蛇とも猫ともいわれることと呼応しているように思える。こちらで山姥や蜘蛛が機織姫を介して蛇とつながるように、南西諸島のほうでは何らかの理由(鼠を捕る、という点か)で猫と蛇が繋がるのならば、食わず女房のこの傾向も頷けるということになる。
また、女房の正体が菖蒲と蓬を嫌うのだ、とは南西諸島でもいうが、上の話のように特に嫌っているわけではなく、屋根に草木が生えもう家に戻ってきそうもない、として去っているのも目を引く。これは隠れ蓑としての菖蒲と蓬の効能をうたったものではないか。