雲仙湖の大蛇

原文

島原の雲仙が蛇の、蛇の怨念(おもい)で陥没れたちゅう話じゃんさお。そいでな、非常にこん、あげんて(幸運にの意)めぐまれん貧乏人がおったちゅうわな。そしたとこいが雲仙の湖に住んでおる蛇の魂が、〝あんまい可哀想じゃっ〟ちゅうとこいで、人間に化けて、女子蛇がそん、貧乏人の嫁さんになったちゅもんな。そしたとこいが、そん男はほら、蛇ちゅうことは知らじん(知らずに)そして良か、ええもんじゃったちゅうとこいで、嫁御を持ちあえじんおったとこいほら……。

で、そしてほん、暮れておったとこいが、嫁御が妊娠して、そしてもう望(もつ)前、もうあえんして、もう望ちゅう時、そしてそん、我が家のそん、此地で、此家ですれば、此方の隅っくれ、奥間にへいくで、「もう妊娠してそん、子の生まるっとじゃっ」ち、言て、そして「私がほん、子を生めば……、生んで私が出て来い迄(はざ)、そん、見ちゃくるっな」ち、言たっじゃしとおな。もう奥う間へい込で、へっ込んで、せっきって(閉めきって)。そいから〝見てくるっな〟ちゅえば、かったこう(なんだかこう)、誰でもあいことそん〝どういう訳で見てくるっなちゅたっじゃろ〟ちゅとこいでそん、見ろごたんさいな(見たくなりますよね)。〝不思議な事ば言た〟と思て。

そいから三日も四日も経ったっちゃ出て来んもんじゃっで、〝どうも不思議なもんじゃ〟と思ちゃ、飯も食わせけも行かんたっじゃっもんな。見んなちゅうとじゃっで。〝こら死んどっ、死んだっじゃなけろ〟と思て、そろっとそん、知らんごとと思てじゃしたどんな、戸のすき間から、こう、見てみたとこいが、大(ふと)か蛇がつぶろうって(とぐろをまいて)そん、まん中そん子を入れて眠とったっちゅもんな!! そんいき(その瞬間)、そん婿どんが魂がって〝そい、そいでそん、見んなちゅたっじゃっど。こげんもんじゃったっじゃろかしらん〟と思て。知らんどと思てほら、黙って引っ込で、あげんしたたっどん、ちゃんと、もうほら、知っとった、知っとったちゅもん、ほんと。

そいからほら、もう外出て来た時ゃほら、人間の姿なって出て来て、「もうお前からそん、私が正体を見られたんでそん、居やならん」ちい、「おらそん、大蛇じゃっとじゃっ」ち、正体は。ほいでそん、「お前のあげんして、難儀して、そして可哀想と思てそん、お前んとこい来とっ訳じゃった」ち、そしてそん、「もちさねん子をいってて(持ったばかりの子供をうち置いて)そん、はってく」ちゅうもんじゃっで、「わいが持ってはっちっくれ。そん子は育たんとじゃっ」ち、「もう乳貰てされて、飲ませっきいもせじ(飲ますことは不可能だ)……」。(今んごとそん、買うて飲ますっちすうかいちな、しようとしても)品物な無しな。昔のこっじゃっで。

そしたとこいが、「そや(その子は)育つと」ち、「いっちょん(少しも)心配ゅしぐれいらん(する必要はない)ち、言うて自分の目ん玉を刳り貫いで、一方な。そしてそん、「饑(ひも)っせ泣たいなしたいすっ」ち、「そいでそん、泣く時ゃこん玉をちゅらせ(吸わせよ)」ち、「そうすれば、いっちょもそん、乳もないも飲ませぐれ要らんたっ」ち。そしてほら、そうしておったとこいがほら、世間の話が、風潮が、嫁御ははっ去て、嫁御がほら、良か玉を呉れていたや、子供はいっちょもあげんせじん、順調に育っち、いう評判になってそん、殿様時代じゃっもんじゃでな。そいから「どういう訳か」ち、「そい、珍なもんじゃっね」ち、言て……。ほんとう、ほん、そん玉をちゅらすればはん、黙ってもう、ほら、けいすればめいしていっちょんも泣っ声もそいらんかったじゃっで……。そうしたほん良か玉じゃっちゅうとこいで、そん殿様がそら、取い上げたっじゃっちゅわお。そい、他人(ふて)あてごたちゃ何のしげきもなかじゃっちゅんでな。他ん人やったちゅちゃ。

そうしたとこいが、もう、玉をおっ取いよったもんじゃっで、もうそん子が泣く。その俟つ物な持たずて(他によい方法もないので)、とうとうもう仕方なし、「どもこも、こうこうじゃっで、お前が呉れっ宛ごていた玉は、殿様が取い上げて、もうそん子が育たん」ち、「どもこも、ま、ま一回出てみてくれ」ち言て、湖辺に行たて言うとったや、また現れてきたちゅもんな、そやつがおはん、またそん、「そういう訳なら」ちゅて、自分な盲目になって、ま一方の目ん玉を呉れたっじゃっちゅわお。そしたやまたそん、後からん玉もまた取い上げたちゅんで、殿様が!! そいからあん、うちまけてほら、蛇の怨念(おもい)で雲仙陥没(くず)れたち。そん陥没るっ、陥没るれっちゃほん、鍛冶屋が一番早ゅ知いもしたちな。鍛冶屋は吹子で吹いてほらそん、火をおこさにゃならんもんじゃっで、そして火をおけっ、火はほら、フーフーおこったっちゅいどん、どうしても鉄がわかん(まっ赤に焼けて融け出さない)たっちゅもんな。〝こら不思議なもんじゃっ〟ち、ゆて、三日じゃいろそげんして仕事すっちゃ、んで、火はウォンウォン燃えとっても鉄がいっちょも焼けじん、仕事すいごと鉄がわかじん、〝こらもう不思議なもんじゃっ〟ち、〝もうそん、碌な事たはじまらんたっで、も、碌な事たはじまらん〟ちゅうとこいで、鍛冶屋は雲仙の陥没るる一週間前、他処さに直っとんしたちゅわな。

そいでどうしてそん、鉄がわかんかち、言えば、しおを吹き上げて、上さに、そいでそん、いっちょも火は燃えんもんで、鉄はわかんじゃったちゅんで。そいで島原ん雲仙の陥没るる一週間前、んで、遠国、そげん土地(とこい)な、邪魔せん所に移転(なお)っじょらいたちゅわ。そしたや案定ほら、島原ん雲仙、人間が……。元はあん、低っか方が高っか所、高っか岡じゃったちゅわお。そん陥没れる前にゃ。そしてほら、海さめ陥没れ落てて九十九島出来たじゃしちゅんでな。そん陥没れたあげんとで、海くずれくうで。島原はんで、ひどほら、前くずれ込だ所が被害(いとお)だばっかいじゃったちゅんが、そいが陥没れ、陥没れっ津波うっ出ていたて、肥後がひど大被害だっじゃっちゅわお(長島 p.12)

(出水郡長島町城川内・男)

 

長島……東町教育委員会南日本文化研究所『長島の民話ー鹿児島県出水郡』1972.3

『日本昔話通観25』より