池の主

鹿児島県姶良市

昔、住吉の池に大蛇がおり、毎年若い娘を人身御供にしないと大水を出した。村人仕方なく従っていたが、毎年祭の時季には娘を持つ家は戦々恐々としていた。そんなある年、浜石門の百姓の家に白羽の矢が立った。村中鼎の沸く騒ぎとなり、百姓は泣き崩れたが、そこへ薄汚い年老いた坊さんが現れた。

坊さんは話を聞き、それならば、ヒョウタンを集め栓をし、その周りに布団を巻いて娘の着物を着せ、人形を作って池に浮かべよと言った。坊さんは身なりは汚かったが、目は輝き顔は慈愛に満ち、浜石門の一同はよろこんでその教えに従った。

はたして人形を池に浮かべると、嵐とともに現れた大蛇がこれを引き込もうとしたが、ヒョウタンの人形は追えば浮き、呑もうとしても浮いて逃げする。大蛇は躍起になって追ったが、とうとう精根尽きはて、血を吐いて死んでしまった。

浜石門の人々は、坊さんを「聖の宮」と祀り、死んだ大蛇の鱗も一緒に祀った。その後、住吉池には二米もある緋鯉が済むようになったが、大蛇の化身といわれる。毎年祭の時季に水面近くに美しい姿を現すというが、はっきり見た人はいないともいう。

『日本伝説大系14』(みずうみ書房)より要約

浜石は大山地区となるようだ。住吉池からは三キロほど東になるか。聖の宮が現存するのかどうかは不明。通常このような助言をする老翁は、かつて助けられた蛙であったりするものだが、そういった報恩譚とはなっていない。周辺にはこういった話が多いかもしれない。

それで以後人形を浮かべるようになった、という神事などあるとまた重みが増すのだろうが、現状そういった話は聞かない。その可能性もある一例、ということで。