三人姉妹

原文

それはそれはのどかな平和な田代村であった。

今年も力いっぱい働いたあとの憩いと安らぎを求め、朝から鳴り響く太鼓の音にさそわれて、老いも若きもうきうきと「おんださん」に集まって来た。

とくにここ数年来の若者の張り切りようはたいしたものだった。というのはいつの頃からか、まことに美しい三人の姉妹がおんださんに来るようになったからである。誰よりも早く薄暗いうちに苗引きに入っているし、鮮やかな手つきで薄暗くなるまで加勢してかえるので、どこの人か誰も知らず、奥の方から来るらしいのであるが、「どこの人か」と尋ねても、ただにこにこと笑うだけだった。

その美しさは天女のように鮮やかで、しかも気品があり、その話し声はまろやかですがすがしく、その笑い声もかろやかでさわやかだった。近くの人々は、あたかも竜宮御殿で花見をしているような気分になったという。

不思議なことにこの姉妹が来るようになって、日和まわりが良くなり、日照りの年でもおんださんが近づくと雨に恵まれ、しかも毎年すばらしい出来ばえであったという。

ある年、勇気のある若者が田植が終わって帰る姉妹を秘かにつけて行ったところ、しめ岩(おせり入口下の大岩)からおせりさんの方に入って行き、なおつけていくと滝上の方にある主淵にスッーと入って行き、しばらく若者の方を悲しそうに振り返ってジーッと見ていたそうであるが、そのまま静かに淵に帰って行ったという。それ限りおんださんには姿を見せんかったげな。

『西郷村史』より