竜になったうさぎ

福岡県福岡市西区

宋に留学した大応国師が修行がなって帰国する際、港へ向かう山道でおびえたうさぎに行きあった。見ると、行く手に十数頭もの狼が待ち構えている。国師は、急ぎうさぎを懐に入れると、おもむろに念仏を唱えた。狼たちはその念力に打たれて去って行った。

それから、うさぎが離れようとしないので、国師はうさぎを連れたまま港から日本への船に乗った。ところが、船が玄海灘に差し掛かった時、黒雲に覆われ大時化となった。この時も国師は船の舳先に正座すると、一心に念仏を唱え始めた。

するとその時、国師の懐からうさぎが飛び出し、海へと姿を消した。そして不思議がおこり、うさぎが跳ねていく先の海水が干しあがり、一本の道ができたのだった。国師以下船の人々は、その道に飛び降り、両側に渦巻く荒波を見ながら、博多の姪浜にたどり着いた。

皆が上陸すると、うさぎは燦然と金色に光り輝き、空高く舞い上がったかと思うと、やがて八大竜王の姿となって天に消えていった。

西日本新聞社『福岡県の昔ばなし』より要約

これは西区姪浜は興徳寺に伝わった話で、昔は餅を兎の形に作ったりしていたそうな。

実は船の信仰の周辺に時々兎が顔を出す。これは住吉大神の神使いが兎だというのでそうなる。そうであってみれば竜蛇信仰との関係はいかがなものか、と思うのだが、住吉さんの兎が竜かというとそう直接的な話は聞かない。これが、大応国師に恩返しする兎が竜になったという流れで語り継がれていたわけだ。姪浜の古社は住吉神社であり、おそらく一体となった話だったのじゃないか(今は住吉神社の方でこの伝説を語るようには見えないが)。

鹿や馬や猪などと並んで、兎と竜蛇の接点を……というような線があるかというと、住吉信仰の線くらいしかないので、現状それほど重きを置くことはないと思うが、住吉信仰と隣接しつつやや離れてもそういった接続が伝説化することはある、という事例として知っておきたい話ではある。