法螺貝淵

原文

大久須川の流れが淀み、そこは深い淵となっていました。むかし、ひとりの修験者(山伏のことで、かみの毛をのばし、法螺貝を吹き、金剛づえを持って山を歩き、修行する。)が、この淵近くに住んでいました。たびたびの水出で、田や畑が流され、村人は、たいへん困っていました。

長雨が続いていました。また、水出がするのではないかと、村の人たちは、なちらこちらで、うわさをしていました。この、うわさを聞き知った修験者は、

「これは、淵に住んでいる、主のたたりです。祈祷(おいのりすること)して進ぜましょう。」

と、言って淵にむかって、一心に祈りました。そして、いちばん大切にしていた法螺貝を淵に、投げ入れました。

そのうちに、雨が小降りになり、いつの間にか止んでしまいました。川の水も、だんだんと引いてきました。そして、淵の中から法螺貝の吹く音が、かすかに聞こえはじめ、そのうちに大きく聞こえてきました。水出の心配は、全くなくなりました。村人たちは、いろいろの物をもって、修験者のところへ、お礼にきました。村人は、この法螺貝の不思議の力に、ただただ、おどろくばかりでした。

それ以来、大水のある時は、そのまえぶれとして、法螺貝の音が、村里にひびきわたり、水害をまぬかれることが、できたということです。

むかしばなし編集委員『かもむらむかしばなし』
(賀茂村教育委員会)より