大蛇の話

原文

大蛇(おろち)の話は何処にもありますが、今回は入間海蔵寺の大蛇の話を申しあげます。

海蔵寺は入間の海の見える岡の上に建っていますが、昇って見ると寺のあるところは岡の凹みにあります。ここは元、大池と言って古池のあった所であったと言われます。

海蔵寺は山の方からここに移されることに相談がきまって池の水を出すために池の西側に排水路を作って池を干したところ、池の底から一匹の大蛇が現れ、水の枯れた池を這いまわるうちに、たちまち娘の姿に化けて上瀬戸屋に行って老婆に水を求めたと言う。

老婆が知らないので乞われるままに水がめから水を汲んで与えると、一気にのんで、もう一杯と乞われるので裏の井戸を教えてあげると、娘は井戸の水を汲んでは呑み、汲んでは呑み、とうとう呑みほしてしまい呑み終ると大蛇の正体を現したので、これを見た老婆は驚きに声も立て得ず尻もちをついた。大蛇はのそりのそりと今の津島神社の方へ行ってその大きな蛇体を神社の柏杉に巻いてこすり廻したところ、さしもの柏杉も根こぎにされ大蛇はそのまま海の方に向ってのたり出して小浜の札打穴に入って姿を消したと言い伝えられています。

津島神社のことを「身こすり神社」と言うのはこの事から出て居るとも申されているが昔からだれ言うとはなしに語り伝えられている郷土の民話を、どうぞ今にあたためて部落の名残としたいものです。

南伊豆郷土館『南伊豆民話集』より