蛇くだり

静岡県賀茂郡南伊豆町

大昔、子浦港がまだ池だった頃、池の主の大蛇(おろち)がいて、毎日妻良・子浦の峰と池をぐるぐる回って治めていた。ところがある日、突然の地響きとともに池の一辺が崩れ落ち、大蛇は妻良山へ行くことができなくなってしまった。

大蛇は仕方なく崩れ落ちたばかりの絶壁を下ってから、妻良山へ登っていった。今も黄褐色の岩肌に大蛇の姿が黒く刻まれており、土地の人は蛇下りと呼んでいる。また、このときに池が海とつながり、子浦港になったのだという。

南伊豆郷土館『南伊豆民話集』より要約

伊豆大島の波布港も、大昔湖だったのが大津波で海とつながったという伝説を持つ。下田や鯉名湊あたりもそうだったのじゃないかと思うのだが、あるいは伊豆の海で好まれた湾港の生成伝説の型なのかもしれない。湖水伝説・蹴裂伝説と近い。

なんとなれば、「蛇下り」という地形は現存するのだが、海に面した岩壁をかつてマグマが貫いた帯状の岩脈があり、それをいう。付近ではそういう見立てがまだあって、松崎のほうでは同様のものを「蛇のぼり」といっている。