大川の向田川のおよそ五キロメートル山おくに、川のふちがあります。その川のふちから高さ一五、六メートルもあるきり立った岩の下に、石神神社がまつられています。
そして、そのとなりには石神大明神がまつられており、この大明神の御神体は、「だいじゃ」だといいつたえられています。
そのむかし、よく「神隠し」が出ては、人をかくすといわれていました。大川の村でも、夕がた、かくれんぼなどをしていると何人かの子どもたちが神隠しにあって、いなくなってしまったということです。
家の人は、村人をたのんではあちこちさがすのですが、神隠しにあったものはけっして出てきません。さがすあてもなく、何か月かたってなくなくおそうしきを出したそうです。
そんなあるとき、たいへんきもったまの太いあるじが、
「かくされたものなら、かならずかくしたやつがいるはずだ。そいつをさがしてやる。」
といって、神隠しの出そうなところをさがし回りました。だんだん山おくまで行き、石神神社があやしいと、まい日そのあたりを、すみずみまでさがしました。
そんなある夜、あるじはだいじゃのゆめを見ました。
「神隠しにあったという子は、だいじゃのおれが食べてしまった。もうこれからは、わるいことはしない。今までおかしてきたつみのつぐないに、こんどはやまいにかかった子どもをたすけるから、もうさがさないでくれ。向田川の山おくに石神大明神としてまつり、それをおがめば子どものやまいはなおるようにしてやる。」
と、ゆめの中でだいじゃがかたりました。
つぎの日、あるじは村人たちにこの話をして、石神神社のとなりに石神大明神として、だいじゃをまつることにしました。
それからは、神隠しもなくなり、村人はやまいの子が出ると、この大明神におまいりしてなおしてもらったということです。