石神大明神

静岡県賀茂郡東伊豆町

大川の奥の川のふちに、十五六メートルもあろうかという切り立った岩があり、その下に石神神社が祀られている。そして、その隣に石神大明神が祀られていて、その御神体は大蛇であると伝えられている。

昔、里によく神隠しがあり、何人かの子どもたちがいなくなってしまった。そこで、肝っ玉の太いあるじが、隠されたなら隠したやつがいるはずだ、と一帯を隅々まで探し始めた。山奥まで行き、石神神社が怪しいと毎日そのあたりを探していると、あるじの夢に大蛇が出てきた。

大蛇は神隠しにあった子は自分が食べてしまった、といい、もうこれからは悪いことはしないから、これ以上探さないでほしい、と訴えた。その代わりに、これから病にかかった子どもを助けるから、石神大明神と祀ってくれ、と。

あるじはこの夢を村人たちに話して、石神神社のとなりに石神大明神として大蛇を祀ることにしたのだそうな。それからは神隠しもなくなり、病の子が出ると、この大明神にお参りして治してもらうようになったのだという。

文化協会むかしばなし編集委員会
『ひがしいずむかしばなし 第1集』
(東伊豆町文化協会)より要約

伊豆大川の奥に大蛇を祀った祠があるらしい、という話をしたのはもう六年も前だが、いまだにその所在は確認していない。大岩も石祠も現存し、どうもこれは雨が豊富なときにだけ現れる幻の滝がそこにある、ということらしい。

土地の話では、子どもの病気に限らず安産祈願なども行われたようで、よろず子安の神が大蛇だった、という話なのだと思われる。時を限って水があふれる滝、という現象があるなら、筋は通っている。