えびす山

原文

浜崎村の須崎にえびす山という一寸した山が海に突出ている。昔ここに大蛇が住んで居た。大きなほら穴に棲んでいた、それが、須崎という区を今の様に盛にし、海の幸を作出したのだといわれている。この蛇は、沢山の水がめを作って、その穴に入れて置くという。今まで誰一人としてこの山に近づいた者は無かった。処が、今から五六十年前、海に入って亡くなった人があった。神を信仰して居る或人に伺いをたてて貰うと、えびす山の蛇が怒って殺したのであって、その骨はほら穴に在ると言う。そしてまたいうのにはこのえびす山を公園とし、其大蛇を神として祀ればその罪を許してやる。けれども、若しそうしなければ須崎全体を焼いて終うと。そこで村人は騒ぎだし、その次の年早速、えびす山を公園にした。その時そこにあった洞穴から、数個の水がめと人の骨が出て来たという。(大野しげ)

静岡県女子師範学校郷土研究会編
『静岡県伝説昔話集』
(静岡谷島屋書店・昭9)