えびす山

静岡県下田市

須崎にはえびす山という小山が海に突き出している。昔ここのほら穴に大蛇が住んでいて、それが須崎を盛んにし、海の幸を作り出したのだという。蛇はたくさんの水瓶を作ってほら穴に入れていた。昔は誰一人としてこの山に近付いた者はなかった。

ところが、五、六十年前、海に入って亡くなった人がいて、神を信仰する人に伺いをたててもらうと、えびす山の蛇が怒って殺した、その骨はほら穴にあると言う。そして、えびす山を公園とし、大蛇を神と祀るなら罪を許そう、そうしなければ須崎全体を焼いてしまうと言うのだった。

村は大騒ぎになり、次の年にさっそくえびす山を公園にした。そこにあった洞穴からは、数個の水がめと人の骨が出たという。

静岡県女子師範学校郷土研究会編
『静岡県伝説昔話集』
(静岡谷島屋書店・昭9)より要約

えびす山というのは恵比須島(恵比寿島・夷子島)という下田市須崎の突端にある島で、現在は橋で渡ることができる。実際に火を焚く祭祀遺構(および須恵器・土器など)が発見されており、この伝説もそれを反映している。資料が出た年から五、六十年前というと明治の前半あたりだろうか。

そして、これはおそらく「りゅーごんさん(竜宮さん)」の話だと思われる。『静岡県史 別編1 民俗文化史』に須崎のこととして、「竜宮神社:リューゴンサンは海の彼方から蛇の姿でやってきたと伝えている」の記述がある。西相模湾のりゅーごんさんの中で、それが蛇だと言っている貴重な記録だ。

なお、夷子島遺跡および、この海の寄り神信仰などの点は大きく古代の伊豆三嶋信仰と関係してゆくのだが、これは「龍鱗」の範囲を超えるので、場を改めて扱うことにしたい。