槌の呪力

原文

桑原の安田はまさんは、出棺後、座敷をオドロ箒で掃き出すものだと伝える。同地の石田すみさん(大正二年生)は次のように語る。一軒の家で一年に葬式が二つ出た場合、二つ目の葬式の出棺後、棺を置いた部屋で横槌をころがし三つ目の葬式が出るのを防ぐ呪術とした。上大沢の森谷はなさん(大正八年生)も同様に伝え、だから平素は槌を座敷へ載せるものではないと伝えた。また、滝沢では一軒の家で一年に二つの葬式が出た場合、二度目の葬式に際して槌に紐を付けて屋敷の中(母屋の周囲)を引き回ったという。人に死をもたらす悪霊や、友引をしたがる死霊を横槌の呪力によって封殺しようとする呪術である。

『藤枝市史 別編 民俗』より