桑原のある家では、一軒の家で一年に葬式が二つ出た場合、二つ目の出棺後、棺を置いた部屋で横槌を転がし、三つ目の葬式がでるのを防ぐ呪術とした。だから、平素は槌を座敷にのせるものではないといった。
また、滝沢では一家で年に二度の葬式が出た場合、槌に紐をつけて屋敷の中(母屋の周囲)を引き回ったという。死をもたらす悪霊や友引をしたがる死霊を横槌の呪力によって封殺しようとする呪術である。
伝説昔話ではないが、このような葬儀の民俗が藤枝にあったという。事例を語っているのはともに大正一桁生まれの方で、現在まだ行われているのかは不明。もっとも、今は年に二度の葬式ということ自体がまずないだろうが。
ところで、この事例では横槌が悪霊死霊を封殺する、というニュアンスになっているが、続く葬式を断ち切るために横槌が用いられた話は全国にあり、中には「三人目の代わりに横槌を埋葬する」とする事も多い。私はこれが本来であると考える。
それがこの話をここで扱う理由でもあり、すなわち横槌は蛇の代わりであり、死者ないしその霊魂が蛇の形を取る、という発想から出ている呪術であろうということなのだ。つちのこ蛇に代表されるように、横槌はまま蛇に見立てられる。
それでは静岡県下には死者ないしその霊魂を蛇とした話があるだろうかということになる。これはその残念から蛇と化身するという多くある話との境界が難しいものだが(本来同じであると思われ)、裾野市の端的な事例などから追われたい(「蛇」)。