水上池悪龍

静岡県藤枝市

水上村万福寺の本尊・水干不動縁起にいう。水上村は昔一面の大洋で、周囲は三十六町余あった。池中に毒龍があって、往来の人を悩まし、里の人はこれを患いていた。時に、宇陀上人という密教の聖が来、里の人は潜る龍の降伏を上人に願った。

上人は招きに応じ、水想観に入り加持三昧となったところ、一夕霊夢を得て、即明王の霊験により、潜龍は降され、池水は去り陸と変じた。人々は安堵して里に暮らすことができるようになった。

今瀬戸町の名産とする「染飯」は、この龍鱗をかたどったものだ。紙袋に押す板木の裏に鱗形三重の冠が刻してある。(駿國雑志・志太郡誌)

小山有言『駿河の伝説』
(安川書店・昭18)より要約

今も売られている瀬戸宿の染飯(そめい)は、強飯を梔子の実で黄色く染めて小判形・三角形にのばして干した食べ物。てっきり小判だと思っていたのだが、なんと龍鱗であったという話であります。

「かたどった」ということで、竜蛇がその製法なり形状なりを伝えた、という話系とはならないが、鱗に模した黄金の強飯というのも珍しいものではあるだろう。