郡村に青池という池があり、弁財天がある。池の主をナメダラウシという。この主が吠えるときは、近いうちに雨が降る。その声は近い所から返って遠い所に響いた。
旱魃の年、農夫が藁で大牛を作り、鉦太鼓を鳴らしてこの牛を水穴に入れれば、三日のうちに必ず雨が降る。どんな旱魃でも池の水が減ることはない。池の底には水穴が七つあり、清水を噴き出している。領主の狩場であり常は殺生が禁じられている。
また、遠州佐倉の池に続くともいい、六月佐倉池祭の日には、そちらで沈んだ赤飯櫃が青池に浮かび出ることがあるともいう。水脈がつながっているのだろう。(駿國雑志)(西益津村誌)
藤岡市緑町の県道沿いに、今も青池はある。周辺すっかり開けていて、ヌシがいるような池ではないが。そこに「なめだらうし」という雨を呼ぶヌシがいたのだという。これが牛なのかどうか、藁牛を沈めるともあるので牛なのだろうが、そうならこの池も牛のヌシの池ということになる。
一方、この青池には大蛇が棲んでいたという話もあり(「大蛇姫を殺す」)、竜蛇と牛がともにヌシとして語られている池でもある。静岡に多い傾向なので、この両話は併せ覚えておかれたい。
なお、この話には「七つの水穴がある」「遠州佐倉の池に続いている」「ナメダラとは雨垂からの転訛ではないか」等々、また興味深い点もある。いずれ、おなじモチーフを持つ話からも参照されることになるだろう。