昔、神谷村の某の家の土蔵に、白い蛇が住みついていた。悪いことはしないので長い間そのままにしてあったが、あるとき家の主人が、お前は珍しい白蛇(はくだ)だが、本当に神の使いなら、この三宝の上に乗ってみよ、といった。
すると白蛇は静かに三宝の上に乗って、とぐろを巻いて威を見せたので、主人は三宝に乗せたまま不動さんの本殿へ持って行き、静かに置いて帰ってきた。以来、三月二十八日の祭りの日に、白蛇が岩の割れ目に姿を現すようになったという。
お祭りに来る人は、これを見たさに岩の割れ目を覗く。そうすると、確かに光を反射して銀色に輝く白い蛇が見えるのだという。普通の日に覗いても何も見えないのに、祭りの日に限って見えるのだそうな。白い蛇と金色の蛇がいるともいう。
神谷のお不動さんは今もあり、確かにこの白蛇伝説のお不動さんとして知られている。お祭りの日にはやはりみな岩の割れ目を覗くのだそうな。日を限って見られる現象というと差し込む日の光の角度の話のようだが、詳細は不明。
ともあれ、その見える様子がこれもまた「割れ目に白蛇の横腹が見える」という事例なのではないかと思う(「蛇石」などから)。そうなると、蔵の蛇だった、という点も示唆的となる。
また、この蛇は二匹見え、白い蛇と金色の蛇がいる、という話がされる点も気になる。これも鉱脈筋を含む岩の話から出たモチーフじゃないか、という予測を支持するように思える。